研究課題
大谷崩での土石流観測とUAV(無人航空機)による地形測量を実施した.まず,地上レーザーを用いた測量成果との比較から,UAVによる写真測量の精度を検証し,適切な標定点を置くことで10~20cm精度での地形測量が可能であることを示した.そのうえで,土石流の発生状況をUAVによる多時期の高精細な測量結果を用いて解析することで,土石流の到達範囲が地形条件により大きく異なることを見い出した.土石流の流下と微地形条件には相互作用があり,土石流の流下・遡上堆積(back stepping)・扇頂への到達・首振り・最遠点への土石流流下,というサイクルによって,停止堆積地である土石流扇状地を形成していることが明らかになった.このことは,高精細な地形測量を土石流扇状地上で継続的に実施することで,下流域でのフラッシュフラッドの発生に繋がる素因の評価が可能であることを示唆している.また,UAVを用いた高精細な地形測量を継続的に実施するにあたって,重ね合わせの精度を担保するために標定点の設置や位置合わせが従来は必要であった.これらの作業には時間を要するため,実用上の障害になると考えられる.しかしながら,UAVに搭載したGNSS(Global Navigation Satellite System)によるRTK(Real Time Kinetic)測量を同時に行うことで,撮影画像に正確な座標を付与することができる.この方法を用いることで,標定点を用いない測量でも10~20cm程度の精度の地形測量が可能なことを確認した.従来型の雨量計との同時観測を実施することで,UAV搭載可能な光学式の雨量計の設置角度による測定誤差の検証も開始した.
1: 当初の計画以上に進展している
高精細な測量データを用いることで,事前の想定以上に,土石流の流下痕跡が明確に追跡できたため,当初の目標である地形モニタリングによるフラッシュ・フラッドの発生予測手法の開発については,初年度にしてほぼ道筋が見えた.加えて,GNSS測器などの低価格化により,RTK測量を併用した写真測量が容易に可能になったため,上記発生予測にかかる手間の大幅な削減が可能になった点も,当初の予想を越える成果であった.
本年度に得られた成果を危険雨量に落とし込む解析を行っていく.フラッシュ・フラッドの契機となる土砂移動/地形変化は,降雨強度と継続時間の影響を大きく受けることが知られている.当該年度の成果から,危険雨量となる降雨指標の閾値は,微地形条件によって変化すると考えられ,そのような降雨指標をどのように実装するかを検討していく.あわせて,気象観測の機器開発と性能検証を行っていく.
当初,流域の土壌水分の空間分布を把握するためにUAVに搭載可能な近赤外カメラを備品として計上していたが,仕様の異なる後継機種に切り替わったことと,本年度の成果によるRTKによるジオタグ精度の向上を期待できないことから,購入を見送り,次年度以降に改めて代替品も含めて検討することとした.
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Geomorphology
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