本研究は全層雪崩が発生する斜面上の積雪底部において、積雪の密度・含水率、積雪中の物体にかかる応力、積雪底面から流出する水量と水質の変化を計測する手法を開発することで、グライドによって雪崩発生直前に変形・破壊に至る積雪の性状変化を捉え、それらの変化と「雪崩発生のタイミング」「グライド速度の変化」との関係を明らかにすることで、全層雪崩発生の危険度指標を提案することを目的とする。 本年度はこれまでに得られたデータの解析を行なうとともに、計測手法の開発・改良などを進めた上で、2020/21年冬季に新潟県魚沼市大白川の観測斜面で積雪の性状変化に関する各種計測を実施した。 本研究での計測結果とそれ以前の計測結果とを合わせて、3冬季における降積雪特性、斜面上の低木広葉樹の樹幹傾斜、積雪グライド量の推移と全層雪崩の発生との関係を比較し整理したところ、グライドの進行や全層雪崩の発生時期には初冬の気象条件も大きく影響を及ぼすこと、その一方で、クライドが加速して雪崩発生に至るためには、直前時期の積雪の性状変化がきっかけとなる可能性が大きいことが明らかとなった。 2020/21年冬季には、誘電式含水率計を用いて積雪の密度・含水率の指標となる計測値のリアルタイムでのモニタリングを実施したほか、新たにグライドメータのソリに含水率計を搭載して、斜面上を移動しながら積雪底部の状態を計測する試みも実施した。前者の方法では全層雪崩の発生によって測器やポールが破壊を受けたものの、発生直前時期の顕著な変化を複数箇所で確認することができた。また斜面積雪の移動に対する灌木の抵抗力をひずみゲージによって測定することに成功し、灌木の抵抗力の減少に伴って、グライド速度が増加する振る舞いが確認された。 残雪のためにまだ一部の計測機器が回収できていないこともあり、2021年度中に、さらに解析を進める予定である。
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