研究代表者はこれまで,レーザ光をパイプのような薄板状材料表面に照射して発生する弾性波を用いた損傷画像化手法を研究してきた.その中で,損傷はレーザが照射できる領域のみ画像化することが可能であり,パイプの裏側のようなレーザを照射できない領域にある減肉を検出することは不可能であった.そこで本研究では,パイプの周方向を伝搬する弾性波の共振を利用することで,レーザ照射できないパイプの裏側にある減肉を検出を目的とした. 初めにファイバレーザにkHzオーダーの変調信号を与えてレーザ出力を制御し,それと同期した弾性波受信信号を収録できるシステムを構築した.これにより,パイプに変調をかけたレーザ光を照射することで,変調信号に対応する周波数の弾性波を発生させることができ,その周波数を理論的に求められる周方向共振周波数に一致させると,明瞭な共振状態が得られることが実験的に示された.また,レーザ光を走査して,受信される共振ピークでマッピングしたところ,周方向共振パターンに対応する縞模様が得られ,この共振が周方向共振であることが確認された.さらに,この共振パターンは裏に減肉がある箇所において途切れるという実験結果が得られた.このことは,このガイド波の周方向共振の計測がパイプの裏側の減肉の検出への適用可能性があることを示している.しかし,本手法では,円周方向の共振以外にも軸方向の共振の影響を大きく受けることがあり,配管の非破壊評価において大きな問題となりうることも分かった. そこで2年目以降には,この新しい振動現象(パイプの周方向の共振ガイド波)を,ガイド波分散曲線による理論検討と数値計算および実験的検討により,詳細に解析した.その結果,パイプ溝部でガイド波エネルギが補足され,明瞭な共振現象が測定された.この波動場は溝部に集中して振動するため,高感度センサへの利用が期待できる.
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