研究課題/領域番号 |
18K18924
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
谷本 潤 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (60227238)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | マルチエージェントシミュレーション / 数理疫学 / 進化ゲーム理論 / インフルエンザ |
研究実績の概要 |
様々な階層で錯綜する人間社会ネットワークを伝搬して拡がるインフルエンザ感染に着目し,情報科学,疫学,ネットワーク科学,進化ゲーム理論,複雑系社会物理学を応用した学際アプローチに基づき,計算機システムに仮構する人工社会上に相互浸透的マルチエージェントシミュレーション(Multi Agent Simulation; MAS)モデルを理論構成する.構築したこの人工社会システム上で,現実世界では行い得ない様々な状況を想定した一連の数値実験を行うことにより,複雑社会ネットワーク上で繰り広げられる感染動態(インフルエンザ伝搬;純粋な物理ダイナミクス)と社会システムにおけるワクチン接種受容性動態(協調的行動の意志決定に関する社会ダイナミクス)とが共進化する複雑現象を忠実に模擬しながら,行政,公衆衛生,防疫,メディア情報など多様なスケールで様々取り得る諸対策の効果を定量的に予測評価する枠組みを開発する. 研究初年度の2018年度には,インフルエンザ流行シーズンにおける感染ダイナミクスをS(未感染)→I(感染)→R(回復)/V(予防接種による免疫獲得)の推移として記述するSIR/Vモデルを適用して,複雑社会ネットワークに配置された個々のエージェントの感染ダイナミクスを追跡するパーコレーションに準拠したサブモデルを構築する.また,1流行期終了後に予防接種,中間的防御策を含む感染予防にコスト負担する/しないの戦略見直しを行う戦略ダイナミクスサブモデルを構成し,これらの両サブモデルを相互浸透的に接続することで,あるエージェントが自ら有する社会関係により裨益する利得とインフルエンザ罹患及び自己防衛のためのコスト負担とを組み込み,感染予防に自らコスト負担する/しないを戦略と定義した進化ゲームを,マルチエージェントシミュレーション(Multi-Agent Simulation; MAS)モデルとして人工社会上に構成することに成功した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数学科出身のバングラデシュ・ダッカ大学の若手アカデミック3人を博士課程学生として受け入れることが出来たため,SIR/Vの拡張版演繹モデルの構築を中心に理論アプローチが順調に進捗した.また,大型計算機システムによる系統的数値実験が軌道に乗り,MASアプローチも大きく進展したことが主な理由である.
|
今後の研究の推進方策 |
当初計画通り,複雑社会ネットワークの生成と公刊資料に基づくインフルエンザ感染に関する疫学データ解析,人工社会実験とインフルエンザ・パンデミックを阻止する社会方策の提示の両サブテーマに取り組み,人類社会が直面する脅威として認識されているインフルエンザのパンデミックを封じ込めるために要請される俯瞰的かつ実質的に有意な社会処方箋を提示する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画上は初年度に大規模数値実験のための大型計算機使用料や大規模データ解析,プログラム開発のための人件費,さらには消耗品等その他を計上していたが,実際には,SIR/Vサブモデルの開発やMASへの実装など研究上の多くは,理論及び演繹アプローチによる手続きとなったため,実際の執行は上記のように計画以下の水準となった.なお,これらは研究2年目の最終年度に集中的に投下して,効率的に執行することが望ましく,次年度使用予定額として積み残している. なお,このことによる研究計画の進捗に遅延を来す事態は一切生じていない.
|