研究課題/領域番号 |
18K18928
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
増野 敦信 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (00378879)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 希土類ガラス / 磁性 / 磁気光学効果 |
研究実績の概要 |
無容器法で合成した高充填密度ガラスに高温高圧処理を施すことで,ガラスでは決して発現しないとされている強磁性を示すガラス,「透明ガラス磁石」を創り出す.透明ガラス磁石の実現は,「結晶における並進対称性に起因する物性は,ガラスのような非晶質材料では発現しない」という常識から,ガラスを解き放つものであり,物質科学の体系を変革し転換させる.また,強い磁気光学効果により高性能光アイソレータとしての応用に繋がることから通信分野に革新をももたらすことになる. 平成30年度は,主に希土類を多く含められる系の一つである希土類ホウ酸塩ガラス(R2O3-B2O3系)のガラス化範囲を決定し,それらについて基本的な物性を測定した.これまでにLa2O3-B2O3二元系で,無容器法を用いることで従来のB2O3リッチ組成だけでなく,La2O3リッチ組成でのガラス化を見いだしていた.このLa2O3をその他の希土類に変えてガラス化範囲を調べたところ,Pr系はLa系とほぼ同じ組成域であったのに,より重希土類になると,ガラス化範囲が一つに統合されていた.また,希土類イオンのイオン半径が小さくなるほど,ガラス化範囲が狭まっていた.それでも50R2O3-50B2O3組成では全ての希土類に対してガラス化が成功したため,これを希土類リッチ基本組成として,各種物性を調べた.密度や充填密度は希土類イオンのイオン半径にしたがって系統的に変化していた.一方でガラス転移温度には大きな差は見られなかった.ただし,結晶化温度以上でアニールして結晶化させたときに,析出する結晶相に差異が見られた.いくつかの試料について磁気光学効果を予備的に測定したところ,一般的な磁気光学ガラスを遙かに凌駕するベルデ定数が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は,無容器法を用いることで希土類を多く含められる系の一つである希土類ホウ酸塩ガラス(R2O3-B2O3系)のガラス化範囲を決定した.これまでの研究ではR = La系ではR2O3が20~35mol%だけでなく50~63mol%の高含有の領域でもガラス化させることができていた.La2O3を磁性を有する希土類に変えたところ,組成に依存した様々な物性変化が見られた.なかでも興味深いのは,R = Prでは2つのガラス化範囲はLaの場合と同様であったのに対して,それ以上の重希土類になると,中間のガラス化しなかった組成でもガラス化ができるようになったこと,一方で徐々に希土類含有限界量の減少が見られたことである.密度やラマン散乱,放射光XRDの結果から,50R2O3-50B2O3系では,B周囲の局所構造には変化が無いが,希土類周囲については,イオン半径に対応して変化していることがわかってきた.以上のことは,ガラス形成能を支配しているのは,BではなくRであることを示唆している. 50R2O3-50B2O3組成を希土類リッチ基本組成として,各種物性を比較した.ガラス転移温度には大きな差は見られなかった.ただし,結晶化温度以上でアニールして結晶化させたときに,析出する結晶相に差異が見られた.これは相図に載っている安定結晶相の構造に対応してガラス構造にも違いがあることを示している.いくつかの試料について磁気光学効果を予備的に測定したところ,一般的な磁気光学ガラスだけでなく,市販のGd3Ga5O12結晶を遙かに凌駕するベルデ定数が得られた.
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今後の研究の推進方策 |
希土類ホウ酸塩ガラスについては,すべての希土類に対してガラス化範囲を決定することができた.今後は磁性イオンを含有する組成のガラスについて,順次磁気光学効果を測定する.磁気光学効果の測定には現在別機関の装置を使っているが,当研究機関でも同様の装置を組み上げ始めている.完成すれば大量に合成したガラスに対して,速やかにデータが得られると期待できる. ガラスの構造解析を行うことで,さらなる材料設計指針が得られる.希土類ホウ酸塩ガラス(50R2O3-50B2O3)に関しては,ラマン散乱,放射光XRDを測定済みである.予備的な結果として,いずれの希土類に対してもBは完全に孤立したBO3となっており,ネットワークを形成していないこと,一方で希土類イオンの配位数や酸素との距離は,希土類イオンのイオン半径にしたがって系統的に変化していることなどがわかってきている.現在,分子動力学シミュレーションによってこれらの構造データをよく再現する構造モデルの作製を行っている.ポテンシャルの最適化が終われば,希土類イオンの局所構造が決定でき,希土類イオンの準位が周囲の結晶場によって分裂する状況を理解することに繋げられる.これにより,可能性のある局所構造のなかで,どのようなものであれば磁性をより発現できるかを議論できるようになる. R2O3-B2O3二元系での組成探索は終了したので,今後はTiO2系,Nb2O5系,WO3系,Ga2O3系において,磁性希土類高含有組成でのガラス化を目指す. 高圧実験はまだ実験環境は整えられていないので,別機関の装置を借りて予備的な実験を行う予定である.
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