研究課題
ボロン(B)は、少量の添加で鉄鋼材料の組織や特性を劇的に変化させる合金元素であるが、その元素機能の発現メカニズムはほとんど理解されていない。これは、Bが軽元素であり、添加量が通常100 ppm以下と微量であることから、局所定量分析が困難であることに起因する。近年、分析機器の性能が向上し、Bの空間的分布の観測や定量分析が可能となってきた。本研究は、Fe中のBの固溶限や拡散係数といった,信頼性の低い過去の基礎データを新たな手法で測定し、Bの挙動理解に資することを目的とした。Fe箔とFe2Bを固相接合した拡散対を熱処理し、Fe箔内に生じたBの濃度変調をrf-GD-OESで計測することで、αFeとγFeにおけるBの固溶限を決定した。rf-GD-OESは、Fe中のBの検出能が高く、検出限界は1.7 ppm、定量下限は3.3 ppmであった。Fe-B二元系におけるγFe中のB固溶限は、最大固溶限が約50 ppmとする報告から約200 ppmとする報告が存在するが、本研究では、最大でも60 ppm程度と前者を支持する結果が得られた。同様に、αFeにおけるBの固溶限を測定すると、A3変態点近傍の最大固溶限においても10数 ppmであった。Fe-B二元系合金を湿水素雰囲気中で熱処理し、脱B反応の進行速度を計測した。脱B反応の律速過程はBの体拡散であるという仮定のもと,脱B速度からBの拡散係数を算出した結果,γFe中のBの拡散係数はγFeの自己拡散係数よりも3桁大きく、侵入型固溶が示唆されるものの、拡散の活性化エネルギーはFeの自己拡散のそれよりも大きいという、一見矛盾した結果が得られた。同様の手法でαFe中におけるBの拡散係数を求めると、γFe中におけるBの拡散係数の測定結果と概ね一致した。このことから、脱Bの律速過程はBの体拡散ではなく、Bの離脱を伴う表面反応であると推察された。
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Tetsu-to-Hagane
巻: 106 ページ: 292~301
10.2355/tetsutohagane.TETSU-2019-114
Proceedings from EPRI’s 9th International Conference on Advances in Materials Technology for Fossil Power Plants and the 2nd International 123HiMAT Conference on High-Temperature Materials
巻: 1 ページ: 156-161