研究課題/領域番号 |
18K18940
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤田 晃司 京都大学, 工学研究科, 教授 (50314240)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 強誘電体 |
研究実績の概要 |
BaTiO3やPb(Zr,Ti)O3などに代表されるペロブスカイト型酸化物強誘電体・圧電体の設計は2次ヤーン-テラー効果に基づく金属元素-酸素間の共有結合の形成に立脚しており,結晶構造の反転対称性を破るために特定の元素に特有の性質(Ti4+のd0電子配置やPb2+の6s2孤立電子対)を必要する。近年、層状ペロブスカイト酸化物を対象に、酸素八面体回転によって結晶構造の反転対称性を破り、副次的なカチオン変位を誘起して自発分極を生み出す「間接型」の機構が提唱されている。酸素八面体回転はカチオンの電子配置とは無関係に起こり、ペロブスカイト関連化合物において最もありふれた構造歪みである。このため、間接型の機構を用いると。新規強誘電体の物質群が開拓される可能性がある。実際、対称性に関する考察と第一原理計算を組み合わせることで多くの新規強誘電体が提案されており、いくつかは実験的に確認されている。 応用にあたって、自発分極値、抗電場およびキュリー温度などのパラメータを評価する必要があり、そのためには実験的な検証が不可欠である。平成30年度は、n = 2のルドルスデン・ポッパー型層状ペロブスカイト酸化物を対象に、特に二次ヤーン・テラー活性なイオンを含まない(Sr,Ca)3Sn2O7に焦点を当て、酸素八面体回転とキュリー温度の関係を調べた。具体的には、放射光X線回折、中性子回折、メスバウアー分光、光第二高調波発生により構造解析と物性評価を行った。得られた結果を既知のルドルスデン・ポッパー化合物に関する報告と合わせて整理したところ、キュリー温度とペロブスカイト許容因子(酸素八面体回転の大きさの尺度)の間に直線関係が成り立つことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、酸素八面体回転由来の間接型強誘電体をいくつか見出すことができた。一つの代表的な成果として、n = 2のルドルスデン・ポッパー型層状ペロブスカイト強誘電体の構造-物性相関に関する論文が、J. Am. Chem. Soc. 140, 15690-125700 (2018)に掲載された。この成果は、新しい強誘電体の開拓に寄与するだけでなく、強誘電相転移機構の解明につながる重要な知見である。 これまでの研究において、第一原理計算による物質探索・物質設計が非常に有効であることがわかり、研究の進展に大いに貢献している。また、国内および海外施設で測定した高精度な放射光X線/中性子回折データを使って、精密構造の決定に成功している。強誘電体の評価装置も整備されつつあり、評価手法も向上した。今後、第一原理計算-構造解析-物性評価の有機的な連携により間接型強誘電体の物質群が拡張され、このタイプの強誘電体に特有の物性・機能が見出される可能性は大いにある。
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今後の研究の推進方策 |
従来のペロブスカイト酸化物強誘電体では、イオンの変位によって直接的に極性構造が形成され自発分極が発生する。このような、いわゆる直接型(あるいは変位型)強誘電体が、数十年間、強誘電体研究の主流を担ってきた。この流れを大きく変革するため、本研究では、従来の直接型とは異なり、「間接型」の機構に基づいて新奇強誘電体を開拓する。 間接型強誘電体の物質設計では、元素選択の自由度が直接型の場合と比べて遥かに大きく、従来では実現困難であった機能を容易に付与することができる。この観点から、今後は磁性や可視光応答性の付与による高機能化の実現を目指す。たとえば、「巨大なスピン-格子結合をもつ室温強磁性強誘電体の創製」などは、学術的に大きなインパクトを与えることができる。既に、磁性イオンが導入された強誘電体を発見しており、構造解析と物性評価を開始している。この方向での研究を推進することにより、高機能な強誘電体が実現する可能性は十分あると予想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
合成した粉末試料に対して放射光X線回折と分光実験を行い、その結果に基づいて構造解析を行ったところ、一部の粉末試料に不純物量が多いことがわかった。高い純度の粉末試料を合成したうえで放射光X線回折・分光再実験をしなければ、目的とする構造精密化を達成できないことが判明したため、次年度使用が生じた。
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