研究課題/領域番号 |
18K18944
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥田 浩司 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50214060)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 軽金属合金 / 散乱トモグラフ / ナノ構造分布 / 小角散乱 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は3次元ナノ構造分布をもつ材料の機能を非破壊で評価する有力な方法であると期待される異方性小角散乱強度に対するトモグラフィー法を実現する上で大きな壁となる、測定データ量(測定時間)と解析における計算コストの爆発的増加という問題を解決するための解決策を①測定手法におけるスパースデータの効率取得方法の検討、②解析方法におけるモデル散乱強度からの逆解析を利用した①の手法の物理的な制限の洗い出しを試みることにある。本年度はまず異方性を評価するための基盤であるベクトルトモグラフの実現に必要な散乱測定配置におけるスカラートモグラフの定量性と再現性の向上と、ベクトルトモグラフ測定のための高S/N測定の同時実現のための測定系開発を第一ステップとして行い、挿入光源を利用した実データ取得をおこなった。さらに今年度実現のシステムでのスカラートモグラフへの拡張可能性の検討を目的としてBragg回折の同時取得を試行し、本研究計画で想定している条件の1つであるピンクビーム利用による回折条件緩和を利用した結晶方位推定のためのデータ取得が散乱トモグラフ取得と同期して可能であることの確認が取れた。一方、今年度の最初の実験では比較的長時間を要するトモグラフ計測中の強度規格化用検出器の安定性に問題があることが事後のデータ解析で判明したため、データ取得に半期の遅れが出た。この点については以前の予備実験でおこなった短時間測定のデータを併用することにより解析をすすめた。現状は解析方法検討には大きな遅れは出ていないが、テンソル測定ではさらに測定点あたりの時間の減少、測定点の増加は必須であるので、上記の改良に加え、規格化計数方法や検出器などいくつかの点での高精度/安定化についての検討と装置改良設計をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初本年度で予定していた課題のうち、上述のように前半実験ではデータ定量化に問題が出たため、期待していたすべての試料条件でのピンクビームでのデータ取得までには至らず、特に2次元から3次元への走査範囲の拡張に関しては配分実験時間の関係で領域を縮小した測定に終わったが、解析手法、計測手法の検討という観点からは必要なデータは十分得ることができた。また、次年度以降に検討している多波長のための基礎検討については今年度は適当なビームラインのめぼしをつけるところまでは至っておらず、まだ机上でのFeasibilityを検討している段階にとどまっている。この点についてはピンクビームとは異なるアプローチとしていくつかの方法を検討しており、実験(ビームライン使用)の実現性と実証用の簡易装置作成難易度の両面を検討し、H31年度にはピンクビーム法との得失比較をおこなう。 解析結果の出版についてはデータ精度の関係で、手法としてはベクトルトモグラフとしての解析結果はまだデータが暴れている部分があり、データのもう一段の安定化を実現してからと考えており、ベクトルについては31年度中に出版を実現したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H31年度はH30年度の計測結果を踏まえたデータ高精度化とデータ取得効率化の改良により、H30年度と比較するとおよそ5倍程度の高速化を前提としてベクトルトモグラフの定量化と強度分布の可視化が実現できると考えている。これを利用した3次元(立体)ナノ構造分布の評価実証をおこなうと同時に、異方性試料の検討上より計測条件の設定がおこないやすい結晶粒分布状態をもつ何種類かのモデル組織試料を導入し、ピンクビームでの方位分布解析との同時検討をおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度開始予定であった多色利用の基礎実験についてのビームライン/手法の絞込みが遅れ、そのための試料作成の加工ジグ類などの準備計画と装置設計計画に遅れが出た。この点については現在いくつかのアプローチ方法を候補として絞り込んでおり、試料の準備方法については対応した作成方法に必要な装置の購入準備を始めており、今年度後半の実験に間に合う8月までを目処に準備が整う予定である。また、試料の位置調整の軸数増加に伴う制御装置増設の経費については昨年度型式変更の可能性があり、上記の実験が始まる時期直前に最新の型式のものを導入するのが望ましいため、購入を遅らせた。実験前には手続きが完了する予定である。この関係で実験回数が次年度に繰り越された分の旅費も今年度は少なくなったが、次年度はその分実験期間と回数の増加を予定している。
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