研究課題/領域番号 |
18K18945
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
辻 伸泰 京都大学, 工学研究科, 教授 (30263213)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 六方晶 / 粒界 / プラストン / 延性 / 塑性変形 / 加工硬化 / 変形双晶 |
研究実績の概要 |
金属結晶の塑性変形は一般に転位のすべり運動によりもたらされるが、最近、研究代表者らは転位以外のメカニズムを含むあらゆる塑性変形現象を包含した「プラストン(Plaston)」という新しい概念を提案している。本研究の目的は、結晶構造に異方性を有し、転位の活動すべり系(幾何学)が限定されるため延性に乏しい六方晶マグネシウムに対し、「プラストン」新概念のもと、バルクナノメタル化によって通常は活動しないすべり系や変形機構を活性化することで画期的な延性・加工性の向上をもたらし、それによりプラストンの学理構築を進めることである。 本研究では、純マグネシウムおよびマグネシウム合金を用い、(i) 巨大ひずみ加工と焼鈍による完全再結晶超微細粒材の作製(バルクナノメタル化)、(ii) 種々の粒径の試料の引張試験による力学特性と粒径の相関の解明、(iii) 塑性変形の担い手(プラストン)の粒界からの核生成の同定など変形機構の解明、という手順に沿って実験研究を進める。 第1年度である平成30年度は、純MgおよびMg-Zn-Zr-Ca合金に対して、HPR(High Pressure Torsion)法による巨大ひずみ加工と焼鈍を施すことにより、数百nm~100μmの種々の平均粒径の完全再結晶組織を有する試料を作製することに成功した。MgおよびMg合金において粒径1μm以下の完全再結晶バルクナノメタルを得ることができたのは、本研究が初めてである。得られた種々の粒径の室温引張試験を行い、強度と延性に関する系統的なデータを獲得した。Mg-Zn-Zr-Ca合金の場合、バルクナノメタル領域において強度と延性の両立が達成できた。一方純Mgの場合には、粗大粒領域から粒径が減少するとともに、最初は強度が増大するが、粒径数μmを境に強度が減少し、一方延性が大きく増大するという、極めて興味深い結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
第一年度である2018年度年度の研究は、計画通り順調に進行した。特に研究実績の概要で述べたように、純Mgの場合には、粗大粒領域から粒径が減少するとともに、最初は強度が増大するが、粒径数μmを境に強度が減少し、一方延性が大きく増大するという、極めて興味深い現象を見出すなど、当初予期していなかった優れた成果が得られている。 得られた成果を、3件の学術雑誌論文、1件の招待講演、3件の国際会議発表、2件の国内学会発表として公表した。研究室の複数の学生と若手ポスドク研究員がバルクナノメタルに関する研究を行い、先端的な研究を通じて若手人材育成にも貢献できた。
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今後の研究の推進方策 |
第一年度に得られた成果を元に、さらに研究を深化させる。作製した粒径1μm以下の超微細粒材を含む種々の平均粒径の完全再結晶組織を有する試料の組織および集合組織を、種々の先端的手法で同定する。それらの室温引張試験を行ない、結晶粒径と力学特性の相関を明らかにする。DIC法やSPring-8放射光を用いた引張変形中その場解析、SEM-ECCI(Electron Channeling Contrast Imaging)法とEBSD法を併用した新観察手法などにより、塑性変形の担い手(プラストン)の粒界からの核生成を定量的に同定する。得られた結果を元に、プラストン概念を基盤として、六方晶マグネシウムの延性化をもたらすための組織制御原理を明らかにする
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次年度使用額が生じた理由 |
試料作製が予測していたよりも順調に進行し、金属合金母材や消耗品費の使用額が予定よりも少なく済んだ。こうしたものは次年度以降、別の合金系の作製や、SPring-8における測定のための費用およびそのための出張旅費として使用し、当初予定以上に研究を進展させる。
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