研究課題/領域番号 |
18K18952
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 幸生 九州大学, 工学研究院, 准教授 (80581991)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 蛍石型構造 / 強誘電体 / セラミックス / 水熱合成 |
研究実績の概要 |
水熱合成法により酸化ハフニウム(HfO2)ならびに酸化ハフニウムジルコニウム(Hf1-xZrxO2)のナノ粒子を合成し、その結晶構造、微構造、化学組成などをX線回折(XRD)測定ならびに透過型電子顕微鏡法などを用いて評価した。計画の初年度である昨年度は水熱合成によるHfO2ナノ粒子の結晶化条件を検討して、160℃以上の条件で結晶化した粒子が得られることを見出した。これらの条件で合成したナノ粒子では蛍石型の結晶構造を有する粒子が得られた。酸化ハフニウムジルコニウムにおいてはハフニウム(Hf)とジルコニウム(Zr)が均一に固溶した粒子が得られていることが分かった。また、XRD測定から得られたナノ粒子の結晶相は単斜晶であり、強誘電性を示す直方晶では無いことが明らかとなった。また、ナノ粒子の粒径は数10nm程度であったが、Zrの固溶量が増えるにつれて増加する傾向にあった。今後、粒径を更に小さくするなどして直方晶化を目指す予定である。 また、一方で強誘電性を示すナノ粒子であるチタン酸バリウム(BaTiO3)について原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)による原子位置の解析を並行して行った。粒径30nm以下のナノ粒子において、Tiイオンが単位格子の中心から有意に変位していることが認められ、強誘電相であることが明らかとなった。また、表面においてはBaイオンの位置が大きく変位していることが認められ、誘電性に影響を与えていることが示唆されることも併せて明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は当初の計画に基づいて、水熱合成法による酸化ハフニウム(HfO2)ならびに酸化ハフニウムジルコニウム(Hf1-xZrxO2)のナノ粒子の合成を試みた。ナノ粒子を蛍石型の構造で結晶化させることに成功したことは当初の計画通りであった。また、ジルコニウム(Zr)を添加ならびに固溶させることにも成功し期待以上の成果も得られている。加えて、予期していなかった成果として、Zrの固溶量に応じて粒径が大きくなるという現象を見出すことができ当初の計画以上の知見が得られたと考えている。この成果は今後Hf1-xZrxO2のナノ粒子の粒径を制御する上において非常に重要な知見となり得る。結果として、計画初年度で結晶化したナノ粒子の合成、X線回折による結晶構造評価、透過型電子顕微鏡法による粒径、結晶構造、化学組成の解析手法が一通り確立され、研究の方法論が確立されたことは当初の計画通りであった。 加えて、並行して行っていたチタン酸バリウム(BaTiO3)ナノ粒子の原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)解析において大きな進展があった。BaTiO3中の単位格子におけるチタン(Ti)イオンの変位を5 pm程度の精度で測定できる技術を確立することができ、Tiイオンの変位分布が流径10-30 nm程度の大きさの粒子で明瞭に測定できるようになった。その結果、当該のBaTiO3ナノ粒子が甲誘電性を示す構造であることが明らかとなる成果が得られた。これは当初の計画では想定していなかった成果で計画以上のものである。
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今後の研究の推進方策 |
計画初年度に酸化ハフニウム(HfO2)ならびに酸化ハフニウムジルコニウム(Hf1-xZrxO2)ナノ粒子の合成ならびに評価手法が一通り確立できたことを踏まえて、今年度は以下の方策で研究を進める予定である。得られたナノ粒子を強誘電性を示す直方晶にすることが今後の最大の課題である。第一の方策としては粒径を小さくすることであり、具体的には20 nm以下のものを目指す。小さい粒子を得るためにまず最初に合成時間の短縮を試みる。加えて準安定の直方晶を得る方策としては、応力の印加、電場の印加、酸素空孔の導入などが考えられる。これらの方策を逐次、あるいは全て同時に試みることで直方晶のナノ粒子を得ることを試みる。直方晶の粒子が得られたら、圧力応答顕微鏡(PFM)を用いた強誘電性の確認や平板型試料の作製による強誘電ヒステリシスループの測定を試みる。 また、チタン酸バリウム(BaTiO3)ナノ粒子の原子分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)解析も引き続き並行して行う。現在、最小のもので粒径が15nm程度のものまで観察を行うことができているが、より小さな粒径8 nm程度のものまでの観察を試みる予定である。より小さな粒子については結晶性の低下が一つの課題となっているため、結晶性の改善が強誘電BaTiO3ナノ粒子の更なる微細化をもたらす可能性がある。
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