Al合金の時効硬化現象は1906年にWilmによりAl-Cu-Mg系合金において初めて見出された現象である。1938年にGuinierとPrestonがX線回折によりAl-Cu系合金の母相内に構造を持ったCu原子の集合体が存在することを発見し、時効硬化メカニズムを説明するための大きな指針となった。析出物と転位との相互作用を明らかにすることは、析出強化型合金の強化メカニズムを正しく理解する上で最重要課題である。室温における析出強化は、転位が析出物をせん断するcutting-モデルと、転位が析出物周囲に転位ループを形成し通過するOrowan-モデルが挙げられる。Cutting-モデルでは析出物のサイズが大きくなるほど転位のピン止め力が大きくなるが、せん断が困難なサイズまで析出物が粗大化すると転位はOrowan-モデルに従い析出物を通過し、ピン止め力は低下する。析出強化がどちらのモデルに従うかは、析出物のサイズのみならず析出物の構造や母相との整合性に依存するため、析出物の構造、形態、成長過程の解明が合金の析出強化メカニズムを明らかにするための糸口となる。合金内に分散する微細な析出物を詳細に解析するためにはTEM/STEMによるナノスケール観察が必要不可欠である。Al-Mg-Si系合金は、添加元素がAlに隣り合うMgとSiであることから解析結果に不明瞭な点が多く、現在においても微構造について議論の尽きない材料である。 本研究では、原子分解能HAADF-STEM法及びSTEM-EDS法を用いた静的観察及びBF-TEM法を用いたその場加熱観察を行うことで、Cuが添加されたAl-Mg-Si系合金における析出物の形態、構造、組成、成長過程を詳細に調査した。
|