研究課題/領域番号 |
18K18955
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西田 稔 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (90183540)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 低磁性生体用形状記憶合金 / 低磁性生体用超弾性合金 / Hf基合金 / Ag-Au-Al合金 / 磁気共鳴画像(MRI)診断 / アーチファクト |
研究実績の概要 |
磁気共鳴画像(以下,MRI)診断は臨床において不可欠な検査法である.しかし,強磁場を用いるため体内に金属製医療器具が留置されている場合,新たな磁場が発生し周辺の画像にアーチファクトと呼ばれる欠損・不明瞭部が生じる.近年,医療器具に多く用いられている Ti合金は比較的磁化率が低くアーチファクトの発生が小規模であるが,MRIの高静磁場化に伴いさらに低磁化率の生体用金属材料の開発が望まれている.本研究の目的はTiと同じく第4族に属しTiより低磁化率金属であるHfに着目しHf基形状記憶・超弾性合金を創製するとともに,低磁化率・反磁性元素で構成される貴金属Ag-Au基生体用形状記憶・超弾性合金の開発を行うことである.本年度の実績を以下に示す. 1.純金属の磁化率測定とMRI撮像:開発する合金の素材となるHf, Nb, Ta, Mo, Ag, Au, Al, Snおよび比較材としてのTi, Zr, 計10種類の純金属の磁化率測定を行い,従来報告されている値と概ね同等であることを確認した.次に先行研究を参考にして試料の形状を直径3 mm, 高さ10 mmの円筒状として,久留米大学放射線医学教室において印加磁場3テスラでMRI撮像を行った.アーチファクトの形状・大きさと磁化率には一定の相関が見られ,詳細は連携研究者の協力のもと解析中である. 2.Hf基合金の溶製:アーク溶解によるHf-Nb-Al,Hf-Nb-Sn合金の溶製を開始したが,HfはTi, Zrより予想以上に活性が高く,鋳塊の表面,特に底面に多量の酸化物の生成し,それらの抑制・除去法が課題として顕在化した. 3.Ag-Au-Al合金の溶製:基本組成であるAg-25原子%Al合金において熱弾性マルテンサイト変態と形状記憶効果が起こることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
1.純金属の磁化率測定とMRI撮像:開発する合金の素材となるHf, Nb, Ta, Mo, Ag, Au, Al, Snおよび比較材としてのTi, Zr, 計10種類の純金属の磁化率測定を行い,従来報告されている値と概ね同等であることを確認した.次に先行研究を参考にして試料の形状を直径3 mm, 高さ10 mmの円筒状として,久留米大学放射線医学教室において印加磁場3テスラでMRI撮像を行った.アーチファクトの形状・大きさと磁化率には一定の相関が見られ,詳細は連携研究者の協力のもと解析中である. 2.Hf基合金の調製:アーク溶解によるHf-Nb-Al,Hf-Nb-Sn合金の溶製を開始したが,HfはTi, Zrより予想以上に活性が高く,鋳塊の表面,特に底面に多量の酸化物の生成し,それらの抑制・除去法が課題として顕在化した.健全なHf合金の鋳塊を得ることは本研究の根幹をなすものであり,改善が必要である.この点が研究が遅れていると判断する理由である. 3.Ag-Au-Al合金の調製:基本組成であるAg-25原子%Al合金において熱弾性マルテンサイト(以下,M)変態と形状記憶効果が起こることを確認した.
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今後の研究の推進方策 |
1.純金属の磁化率測定とMRI撮像:純金属の磁化率とアーチファクトの形状・大きさとの関係を本研究の基礎データとして取りまとめる. 2.Hf基合金の調製:溶解法の変更も含め酸化物の除去方法を検討し,健全な鋳塊を得ることを目的とする.その後,種々の組成のHf-Nb-Al, Hf-Nb-Sn, Hf-Mo-Al, Hf-Mo-Sn合金を調製し,示差走査熱量分析,電気抵抗測定により熱弾性M変態の有無を調査する.次にM変態が確認されたものについてM変態の終了温度から逆変態終了温度の範囲で引張試験を行い,形状記憶効果・超弾性特性を評価する.また,走査および走査透過電子顕微鏡による微細構造観察,磁化率測定,MRI撮像を行う. 3.Al-Ag合金の調製:種々の組成のAg-Au-Al合金の溶製を行い,示差走査熱量分析,電気抵抗測定により熱弾性M変態の有無を調査する.次にM変態が確認されたものについてM変態の終了温度から逆変態終了温度の範囲で引張試験を行い,形状記憶効果・超弾性特性を評価する.また,走査および走査透過電子顕微鏡による微細構造観察,磁化率測定,MRI撮像を行う. 以上の研究を加速させるために,,MRI診断に豊富な経験を有する久留米大学医学部放射線医学教室所属の田上秀一を研究分担者として追加した.分担者は開発合金を様々な生体部位を模したファントムやアガロースゲルに埋没させMRI撮像を行い,アーチファクトの発生の有無と発生の及ぼす出力の影響,発生したアーチファクト形状の解釈,アーチファクトに与える撮像モード(スピンエコー法,グラジェントエコー法)の影響等を考察する.さらには開発合金の医療デバイスへの応用を臨床医学の立場から提案・検討する役割を担う.
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次年度使用額が生じた理由 |
MRI撮像において様々な生体部位を模した1.5および3テスラ用マルチファントム各1セット(1セット300,000円×2 = 600,000円)を購入する予定であったが,連携研究者の助言により初年度はより簡易かつ安価なアガロースゲルを用いたことにより次年度使用が生じた.2019年度は開発した合金の変形による応力誘起変態とそれに付随した組織変化を観察するための設備備品(800,000 円)と金属素材(500,000円)の購入,成果発表のための学会参加登録料・旅費(300,000円),MRI使用料(300,000円),電子顕微鏡使用料(300,000円)等の支出を計画している.
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