研究実績の概要 |
磁気共鳴画像(以下,MRI)診断において生体内に金属製医療器具が留置されている場合,新たな磁場が発生し周辺の画像にアーチファクトと呼ばれる欠損・不明瞭部が生じる.本研究の目的は生体用金属材料として広く利用されているTiと同じく第4族に属しTiより低磁化率金属であるHfに着目しHf基形状記憶・超弾性合金を創製するとともに,低磁化率・反磁性元素で構成される貴金属Ag-Au基生体用形状記憶・超弾性合金の開発を行うことである.本年度の実績を以下に示す. 1.純金属の磁化率測定とMRI撮像:合金素材となるHf, Ti, Zr, Nb, Ta, Mo, Ag, Au, Al, Snを印加磁場3テスラでMRI撮像を行った.試料形状は直径3 mm, 高さ10 mmの円柱状とし,T1, T2, T2*強調画像の三種のシーケンスでスキャンした.HfはT1, T2強調画像ではTi, Zrよりアーチファクトが低減されたが,T2*強調画像では3つの金属とも顕著なアーチファクトが出現した.AgはT1, T2, T2*強調画像のいずれもアーチファクトの出現はほとんど認められなかった.AuはT1, T2強調画像ではアーチファクトの出現はほとんど認められなかったが,T2*強調画像でアーチファクトが出現した.上記の純金属のうちでSnはいずれの強調画像においてもアーチファクトの出現がほぼ認められなかった. 2.Hf基合金の創製:アーク溶解時のHf酸化物の生成は溶解雰囲気の改質によって抑制することができた.種々の組成のHf-Nb-Sn, Hf-Ti-Nb-Sn, Hf-Zr-Ti-Nb-Sn合金を溶製し特性評価を開始した. 3.Ag-Au-Al合金の溶製:Ag-25Alを基本組成とするAg-Au-25Al合金とAu-33Alを基本組成とするAu-Ag-33Al合金を溶製し特性評価を開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1.純金属のMRI撮像:合金元素として想定した10種類の純金属のMRI撮像を終了した.Hfの磁化率はTiの1/8程度であるためアーチファクトの低減を期待したが,大きな効果は認められなかった.一方,Ag, Au, Al, SnはHf,Zr, Tiと比較してアーチファクトの発生が抑えられていた. 2.Hf基合金の溶製:前年度の研究で顕在化したアーク溶解時のHf酸化物の生成は溶解雰囲気の改質によって抑制することができた.種々の組成のHf-Nb-Sn, Hf-Ti-Nb-Sn, Hf-Zr-Ti-Nb-Sn合金を溶製し特性評価を開始した.Hf-Zr-Ti-Nb-Sn合金の作製は当初予定していなかったが,純金属のMRI撮像の結果、Hf, Zr, Tiの3者においてアーチファクトの発生に大きな差が認められなかったので,Hfのβ(bcc)⇔α(hcp)変態点を低下させるためにZr, Tiを添加することとした. 3.Ag-Au-Al合金の溶製:Ag-25Al合金に続いてAu-33Al 合金においても形状記憶効果・超弾性の素過程である熱弾性マルテンサイト変態が起こることが判明したが,変態温度が400℃以上であったため,Al濃度を25,33原子%に固定しAg-Au-Al系合金の変態点に及ぼすAg : Au比の影響を調査している. 以上の3つの研究課題のうち2,3における合金創製が当初の予定よりやや遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
以下の方針に従い研究を遂行する. 1.純金属のMRI撮像:同一純金属においても撮像シーケンスの違いによってアーチファクトの出現量が異なる理由を考察し本研究の基礎データとして取りまとめる. 2.Hf基合金の創製:引き続き種々の組成のHf-Nb-Sn, Hf-Ti-Nb-Sn, Hf-Zr-Ti-Nb-Sn合金を溶製し,示差走査熱量分析,電気抵抗測定により熱弾性M変態の有無を調査する.次にM変態が確認されたものについて形状記憶効果・超弾性特性を評価する.また,走査および走査透過電子顕微鏡による微細構造観察,磁化率測定,MRI撮像を行う. 3.Ag-Au-Al合金の創製:引き続き種々の組成のAg-Au-Al合金の溶製を行い,示差走査熱量分析,電気抵抗測定により熱弾性M変態の有無を調査する.次にM変態が確認されたものについて形状記憶効果・超弾性特性を評価する.また,走査および走査透過電子顕微鏡による微細構造観察,磁化率測定,MRI撮像を行う.さらに「7.現在までの進捗状況」において述べたように,SnはAl, Ag, Auと比較しても著しくアーチファクトの出現が抑制されていたため,Ag-Au-Sn系合金についても検討する.
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