本研究では、金属錯体粒子と脂質界面を利用した新しいセシウム吸着剤の創出を目指して、(1) 金属錯体粒子-脂質界面構造ならびに界面へのセシウムイオン吸着機構の解明と高い吸着能実現に向けた系の最適化を推進し、(2) 脂質二分子膜とナノ粒子複合体へと展開した。 リポソームにイオンチャネル形成物質であるアンフォテリシンB (AmB) を加え、内水相においてプルシアンブルー (PB)を直接合成することで、PB-リポソーム複合体 (PB@Lipo) の合成法を確立した。市販の PB の粒子サイズが 30-60 nm であるのに対して、PB@Lipo ではリポソーム内部に5.1±1.3 nm の PB 粒子が形成されており、リポソームが PB 粒子の凝集を阻害することが確認された。更に添加する AmB の量によりリポソーム上のチャネルの数を変えることで、Fe(II) イオンのリポソーム内部への流入速度を調整し、粒子径およびサイズ分布を制御できることを見出した。 ICP-MSを用いて PB@Lipo の Cs+ 吸着能を評価すると、市販の PB と比較して約2倍の吸着量が確認された。また、粒子サイズが 10 nm 以上になると、市販の PB と同程度の吸着量となった。さらに、放射性 137Cs を用いて放射線量から Cs+ 吸着量を評価したところ、サイズ依存性も含めて、ほぼ ICP-MS と同じ結果が得られた。2つの Cs+ 吸着能評価の結果から、リポソームとPB ナノ粒子に複合化による Cs+ 吸着能の向上が実証された。 また、この合成手法を応用して、リポソーム内水相におけるリン酸カルシウムの合成にも成功した。この実験では、pH や濃度などの反応条件を最適化することで、ヒドロキシアパタイト、リン酸八カルシウムおよびリン酸一水素カルシウム二水和物の作り分けにも成功し、本手法の汎用性が確認された。
|