研究実績の概要 |
ヒドリドの酸化還元電位は、水素標準電極に対して-2.25Vと卑な電位を持つ。そのため、単独のヒドリドと酸素で燃料電池が構築できれば、3.48Vの起電力が得られる計算になる。このようなデバイスを実現するためには、ヒドリドイオン伝導体が必要である。これまでに酸水素化物がヒドリド伝導体として研究が進められている。この材料のヒドリドは結晶格子中を移動すると考えられているが、電池や燃料電池応用にはさらなる開発が必要であるとされている。本研究では新しいヒドリド伝導体の設計方針として、表面もしくは粒界を利用したヒドリド伝導体の開発を目的とした。具体的な材料としてロジウムをドープした酸化物ナノシートを検討した。この材料の伝導性を200℃の乾燥した軽水素中と重水素中で測定したところ、伝導性に違いが生じ、水素が関連する伝導が起こっていることが示唆された。比較実験として、同様な環境でロジウムをドープしていない酸化チタンナノシートや酸化スズ、酸化亜鉛の伝導性を評価したところ伝導率に違いは観察されなかった。ロジウムドープ酸化チタンナノシートの赤外分光スペクトルを軽水素中および重水素中で測定するとRh-H,Rh-Dに帰属される吸収が観察された。また、ドープしたナノシートは水素生成光触媒の助触媒としても機能した。これらの結果はヒドリド種が本材料表面に存在していることを示唆している。しかしながら、伝導率は軽水素中よりも重水素中での測定時に高く、同じ元素であれば、質量の軽い同位体の方が伝導率が高いという一般的な理論に対応しないことが分かった。伝導機構については今後のさらなる研究が必要である。また、伝導性を異なる軽水素/重水素比中で測定すると混合比に応じて伝導性が変化するため、開発した材料は水素同位体センサーとして機能することを明らかにした。
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