研究課題/領域番号 |
18K18960
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
本間 敬之 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80238823)
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研究分担者 |
柳沢 雅広 早稲田大学, ナノ・ライフ創新研究機構, 客員上級研究員(研究院客員教授) (20421224)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 表面増強ラマン散乱分光 / 材料破壊過程 / オペランド計測 |
研究実績の概要 |
本研究は、材料の破壊過程についてナノメートルからミリメートルオーダーの広範な領域にわたって、歪みや応力等の機械的特性変化のみならず、化学構造や局所温度の変化なども同時に高精度でオペランド(実動条件下)計測可能な解析手法の確立を目的としている。独自開発のセンサを用いた表面増強顕微ラマン分光系を基に、破壊初期における機械的歪みの発生・伝搬から化学結合の歪み・切断・伝搬に至る過程を、マルチスケールかつ高空間分解能(面分解能100nm、深さ分解能0.1nm)で同時動的観察・解析可能なシステムを開発し、これまで未知の部分が多かった材料破壊過程の機械的特性と化学構造の変化の相関を同時に分子から複合構造体まで動的に解析することにより、そのトータルなメカニズムの解明を行うものである。そのため、多共焦点ラマン散乱分光装置と耐摩耗性プラズモンセンサを組み合わせた計測系を開発し、超高感度・ナノスケール空間分解能でマルチスケールでの材料表面の化学構造の計測を実現する。試験方法には引張試験を採用し、引張中および破断時の応力や化学構造を同時観察する。今年度は微小荷重印加・変位計測部からなる専用の微小荷重・変位制御機構を導入して引張試験機を開発した。さらに本引張試験機を現有の顕微ラマン分光器に組合わせた計測系を構築し、ゴム材、カーボンファイバーシート、テフロンシート、Liイオン電池用セパレータフィルム、ポリオレフィンフィルムなど、種々のフィルム材料を対象に測定を行った。その結果、ポリオレフィンフィルムにおいて特定のピークの強度が破断直前に変化する現象を見出した。またラマンイメージと試料のイメージは良く一致することも確認した。これらの成果を基に、今後はより詳細なデータの解析を進め、マルチスケールでの材料破壊時の動的化学構造変化についての系統的な知見を得る予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
材料の破壊過程を引張試験で観察するための試験機の試作機を2種類開発した。ひとつはピエゾアクチュエーターを用いるタイプであり、もう一つはモーターを用いるタイプである。いずれについても当初予定のように作動することを確認した。いずれの方式とも2つのアクチュエーターで均等に引張り、観測ポイントにずれが生じないように工夫している。このような機構を変位計の両側にも設け、変位値の左右のずれをアクチュエータ-にフィードバックして補正する形式とした。ピエゾアクチュエーター方式のものについては、引張ストロークは短いものの0.1nmの精密な変位が観察できる。一方モーター方式の変位制度は1μm程度であるが、10mm以上のストロークを達成可能である。また測定試料はアレイ状加工により中心部で応力集中するように作製し、その下部に円筒状の支えを設けて顕微鏡観察時の焦点が変わらないように工夫している。本試験機は現有の多共焦点ラマン散乱分光装置に組み込み、応力集中部の全体のラマンスペクトルの像が観察できた。表面増強ラマン散乱スペクトルを観察する場合は、石英半円柱の透過型プラズモンセンサを応力集中部に接触させスペクトル像を観察した。同センサは引張時の損傷を避けるため、Agナノ粒子を石英半円柱の曲面に埋め込み摺動耐性を付与した。測定試料にはゴム材、カーボンファイバーシート、テフロンシート、Liイオン電池用セパレータフィルム、ポリオレフィンフィルムなど種々のフィルム材料を用い、全て破断するまでの過程および破断の瞬間のスペクトル変化の観察に成功した。特にポリオレフィンフィルムでは特定のピークの強度が破断直前に変化する現象を見出した。このように今年度の検討で所望の性能の計測装置の構築と共に、種々の試料に関する知見を得ることができたため、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の検討では試作した試験装置の引張条件を最適化し、引張時および破断時の精密な化学構造およびマルチスケールでの切断破壊の観察を進める予定である。さらに引張試験におけるプラスチックフィルムの配向構造の変化の観察も行う。さらにシリコンやガラスなどの脆性材料の破断までの結晶構造等の変化についても検討を行う。ピエゾアクチュエータ方式の試験機を適用し、測定に供する試料の加工方法の工夫により、ナノスケールでの破壊過程を多共焦点ラマン顕微鏡と透過型プラズモンセンサを用いてマルチスケールで超高感度オペランド計測し、破壊過程の詳細な解析を行う。さらに耐摩耗性透過型プラズモンセンサの適用により、引張および破壊までの過程における試料のごく表面層におけるナノスケールの欠陥の発生による化学構造変化と、その伝播プロセスを観察する。材料面においては、さまざまな分子構造を有するプラスチックフィルムやゴム材料における分子構造、表面構造や配向構造の変化、およびカーボン繊維やガラス繊維などの繊維強化プラスチックなどの複合材料における界面の破壊プロセスの観察と解析を進める。また当初の計画通り、切断・破壊までの引張のみでなく、繰り返し引張試験を行うことにより、疲労現象についても観察と解析を行う。これらの知見をまとめて体系化し、材料や界面のマルチスケールでの動的破壊メカニズムを明らかにして高強度材料の設計指針の提言を行いたい。
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