研究課題/領域番号 |
18K18961
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研究機関 | 豊田工業大学 |
研究代表者 |
竹内 恒博 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00293655)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 熱流制御デバイス / 電子熱伝導度 / 格子熱伝導度 |
研究実績の概要 |
本研究では,社会的な要請が高い,固体内の熱流を電場により制御するための基礎的な知見を集積すると共に,実用化に耐える性能を示す革新的熱流スイッチングデバイスを世界に先駆けて創製することを目指している. 半導体中の電子濃度はバイアス電圧を用いることで調整することが可能であり,この技術は,MOSFETなどの素子に用いられている.また,コンデンサーの構造を鑑みると,金属や縮退半導体中の電子濃度もまた,電圧により調整できることは明らかである.バイアス電圧により電子濃度を調整し,電子熱伝導度を制御することが,本研究で提案する素子の動作原理である. 一般的な半導体では,格子熱伝導度が大きいため,仮に電子熱伝導度が変化したとしても,その変化を観測することは困難である.電子熱伝導度の制御に由来する熱伝導度変化を観測するためには,格子熱伝導度が著しく小さな材料を用いることが必須である. 上記の条件を満たす材料として,本研究では,Ag2S1-xSexを選択した.Ag2SおよびAg2Seの格子熱伝導度は,いずれも,およそ0.5 Wm-1K-1であり,固体材料として極めて小さい.格子熱伝導度の小さな絶縁層(非晶質Si)を薄帯状のAg2S1-xSexで挟み込みコンデンサー型にすることで,熱流スイッチング素子として動作すると考え,試作・評価した. バイアス電圧の大きさを変えて周期加熱法により熱流の変化を評価した結果,熱流の変化量は十分ではないものの(10%程度)バイアス電圧により固体材料を流れる熱流の大きさが変化することを観測した.本研究により,我々が新たに提案した『バイアス電圧による電子熱伝導度変化を用いた熱スイッチ機構』が動作することを証明することに成功したと考えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現状では,素子形状の最適化や材料の最適化が行えておらず,得られた熱流変化は,高々10%程度であるが.本研究で提案する素子の動作原理が実証できたことは,著しい進捗であると考えている.また,Ag2S1-xSexのみならず.アモルファスSi-Ge薄膜を用いた素子の作製も進めている.熱流の測定に.時間領域サーモリフレクタンスを活用する方法を確立したことから,もう一年研究を遂行すれば,100%以上の熱流変化を示す素子を創製できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究で提案するデバイスは,伝導電子の濃度,ホールの濃度により熱流を変化させる.この機構で変化する領域は,絶縁体との界面から数~数十nm程度であることが容易に予想されることから,作り込むべき素子は,ナノ薄膜である.この薄膜素子を作製する為に,分子線エピタキシー装置を導入する.Si-Ge系材料を用いた熱流素子と,(Ag, Cu)2(S,Se,Te)系材料を用いた素子を,それぞれ,分子線エピタキシー装置で作製し,素子に流れる熱流を,ナノ秒時間領域サーモリフレクタンス法により解析する予定である. 性能は,最低でも100%以上の熱流変化があること,また,可能であれば1000%までの変化を目指す.
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