バルジ試験は、材料の張出し変形性を正確に測定する試験である。実際には孔の開いた基板に薄膜を貼り付け、孔を通して圧力をかけることで薄膜を変形させ、その圧力と実測した変位の関係から、極限引張強度や極限伸び、さらにはヤング率や内部応力、ポアソン比などの機械的特性値の算出を行っている。従来の引張試験などで評価が困難なナノ厚からマイクロ厚の薄膜の評価ができる点が特徴である。しかしながらこれまでの試験は、大気下・室温でのみ行っており、必ずしも測定対象となる薄膜の使用環境とは一致しない。また、硬くて脆い薄膜や撓みやすい薄膜は、原理的な問題により測定できない点が課題であった。そこで本研究では、新たに測定装置を組み上げることで、これら問題の解決を試みた。 (1)「測定環境の充実: 液中での測定や調温・調湿下での測定」では、当初予定していた、液体用のフローコントローラーを用いた精密な圧力制御技術の確立ではなく、孔に張り付けた薄膜を逆さまにした状態で水中に沈め、それに空気圧を用いて加圧するシステムの構築により実現した。圧力を水圧と空気圧の合計とし、これとデジタルマイクロスコープを用いた水中観察による変位の関係から、応力―ひずみ曲線を得ることができ、ポリスチレン薄膜を用いた実測では、大気圧と同等のヤング率となった。例えば、リチウムイオン二次電池におけるセパレーターは、電解液中での作動が基本であり、また高温作動時の機械的な劣化が大きな問題となっている。従って、本研究によって使用環境と同じ条件で耐久性・寿命の評価が可能となれば、より正しい材料設計のフィードバックにもつながるものと期待される。 (2)「硬くて脆い薄膜や撓みやすい薄膜の評価の実現」では、レーザー加工により精度良く穿いた数10マイクロメートルφの孔に薄膜を張り付け、微小変位をAFMを用いて計測することにより可能とした。
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