分子サイズがよく似た酸素と窒素をその混合気体である空気から効率的に分離することは容易ではない。分子ふるいの効果を有するゼオライトやシリカ、カーボンを膜素材とした研究開発が精力的に展開されているが、分子の大きさに基づいた分離機構のみで所望の性能を得るには限界がある。そこで視野を転じると、生体内で酸素分子の運搬に携わっているヘモグロビンは4つのサブユニットから構成され、酸素4分子と結合できる。その酸素の結合席として重要なのが鉄-ポルフィリン錯体(ヘム)である。本研究では、金属イオンと有機配位子が交互に架橋して組み上がるMetal-Organic Frameworks(MOF)の細孔内に酸化還元活性を示すヘム類似化合物としてフェロセンを導入・固定化し、その酸素吸着能を検討した。理想吸着相溶液理論(IAST)を用いて、N2 : O2 = 79 : 21(空気組成)に対するO2/N2選択性を試算したところ、フェロセンを導入したMOFはO2/N2選択性が向上し、O2吸着サイトが形成されたと考えられる。フェロセンは電子的に酸化還元活性な分子であり、電子的にプラスの要素がある酸素がフェロセンと電子のやり取りを行うことによって、MOF細孔中に取り込まれることが示された。O2選択性の向上が課題として残るが、高比表面積、かつ高い規則性と均一性が担保されているMOFのナノ空間場を利用し、生体模倣機能を発現させる可能性が示された。
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