研究課題/領域番号 |
18K18990
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉本 宜昭 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00432518)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 |
研究実績の概要 |
量子コンピュータが実現すると、これまでの古典的コンピュータでは不可能であった超高速並列計算が可能になり、今の情報化社会が根本から覆される程の革命が起こる。量子コンピュータとしては、これまでいくつもの量子系が提案されてきたが、Kaneによって提案されたシリコン量子コンピュータがこれまでのシリコン微細加工の技術を活かすことができ、量子ビットの大規模集積化に適しているので注目を集めてきた。シリコン量子コンピュータは核スピンを持たないシリコン基板を用意し、その中に核スピンをもつリン原子を埋め込んで等間隔に配列する。シリコン基板で原子レベルの精密さでリン原子を配列させることは、今の半導体プロセスでは不可能である。そこで、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、原子操作によってそれを行うことを目的としている。AFMによりシリコン表面の個々のリン原子を可視化し識別した上で操作を行って、所望の配列に並べる計画である。 今回、引き続き異なる結晶方位のシリコン表面にリン原子を導入して、AFM観察することに成功した。個々のリン原子を可視化して、シリコン原子とリン原子とを区別することができた。シリコン原子とリン原子とが混在した同一表面を異なる探針先端の状態で可視化したところ、シリコン原子とリン原子が区別できないことがあることも判明した。そこで、探針先端の原子種の識別の研究を行った。既知の表面原子との間に働く化学結合エネルギーを計測することによって、探針先端の元素同定が行えることを提唱して、実証することができた。一方、異種原子の配列に適したシリコン表面を模索するために、シリセンの未知の相の構造解析も行った。Ag基板にシリセンを蒸着することによって、単層のシリセンを作製した。その中で、ハニカム構造をもつことすら未知であった相をAFMによる高分解能観察によって、構造を同定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでとは異なる結晶方位のシリコン基板にリン原子を導入した試料を作成し、個々のリン原子を可視化することに成功した。AFMにより、シリコンとリンにコントラストの差があるとき、化学結合の差によって区別されていると考えられる。探針によってシリコンとリンの区別が難しいことがあることから、探針先端の元素同定の方法を提案して実証した。一方、異種原子の配列に適したシリコン表面を模索するために、構造が未知であったシリセンの構造解析を行った。表面構造解析におけるAFMの高い能力が示されたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きシリコン表面にリン原子を吸着させた系において、原子イメージングを行い、原子間力による化学状態の識別および操作の実験を行っていく。特に、 AFMのコントラストについて、規定された探針による原子間力測定によって明らかにすることが重要である。安定したリン原子の識別が可能になれば、探針との化学結合を利用した原子操作の研究に発展させる。元素同定にも原子操作にも探針との力の理解が本質的に重要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 原子の識別を可能にする精密計測を行うシステムの機構について、試行錯誤していたため。 (使用計画) 探針の位置合わせの機構を含む、力の精密計測を行うシステムを構築していく予定である。
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