量子コンピュータが実現すると、これまでの古典的コンピュータでは不可能であった超高速並列計算が可能になり、今の情報化社会が根本から覆される程の革命が起こる。量子コンピュータとしては、これまでいくつもの量子系が提案されてきたが、Kaneによって提案されたシリコン量子コンピュータがこれまでのシリコン微細加工の技術を活かすことができ、量子ビットの大規模集積化に適しているので注目を集めてきた。シリコン量子コンピュータは核スピンを持たないシリコン基板を用意し、その中に核スピンをもつリン原子を埋め込んで等間隔に配列する。シリコン基板で原子レベルの精密さでリン原子を配列させることは、今の半導体プロセスでは不可能である。そこで、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、原子操作によってそれを行うことを目的としている。AFMによりシリコン表面の個々のリン原子を可視化し識別した上で操作を行って、所望の配列に並べる計画である。 リン原子を導入したシリコン表面をAFM観察したところ、Si(001)表面ではダイマーがバックリングすることによって、リン原子の位置が把握できた。一方、Si(111)表面ではSi原子とP原子の区別がつかないことがわかった。Sn/Si(111)表面にリン原子を導入した場合には、シリコン、スズ、リンの3元素が確認できることから、リン原子が導入されていることは確認できた。Sn/Si(111)表面において化学結合力の計測を行ったところ、リンとシリコン原子の相互作用がかなり近いことが判明した。リン原子とシリコン原子とで価電子の数が異なるので意外な結果であるが、これが元素識別を困難にしている原因である。Sn/Si(111)表面では、隣り合った原子を交換する原子操作が可能であるので、リン原子を配列させることができると考えられる。
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