進化デバイスには、突然変異、自然淘汰、繁殖の3つの工程が必要となる。これらの工程はそれぞれ別のチャンバに分けて行い、チャンバ間で細菌を移動させることを考えている。そこで、当該年度においては、突然変異を誘発する変異源の選定、変異後の大腸菌のチャンバ間輸送法の検討を行った。細菌としては文献情報が多く、分裂速度の速い大腸菌を用いることにした。 突然変異を誘発するための変異源として、X線、紫外線、薬物(EMS)を検討した。その結果、X線は十分な変異対数を得るには生存率が10万分の1と低く、対象外となった。紫外線とEMSは生存率が2-10分の1程度であり、変異個体数も同等であった。そこで、扱いが最も容易な紫外線を変異源として用いることにした。 突然変異を誘発するためには、予想以上に死骸が多くなることが分かったため、死骸から生存個体を分離する技術が必要と考えた。そこで、大腸菌の走化性を用いれば、死骸はブラウン運動するのに対し、生存個体は誘引物質に引き寄せられて一方向に移動するはずである。アスパラギン酸を用いて大腸菌の走化性を確認したところ、アスパラギン酸の濃度勾配下において、勾配なしの環境の大腸菌の遊泳に比べ、大腸菌の勾配方向への遊泳が28倍(0.175 micrometer/s)となった。このことから、大腸菌の走化性を確認することができた。走化性を確認することは可能であったが、その遊泳速度は非常に低いため、強制的な流れを用いて大腸菌のチャンバ間移動は行うことが好ましいことが分かった。
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