研究課題/領域番号 |
18K19001
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
藤原 敬宏 京都大学, 高等研究院, 特定准教授 (80423060)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 超解像蛍光顕微鏡法 / アクチン膜骨格 / 1蛍光分子追跡 / バネ弾性 |
研究実績の概要 |
本研究では、100 nm程度の網目構造をもつアクチン細胞膜骨格の機械的特性 (バネ弾性) を、超高速1蛍光分子追跡によって定量する方法を確立し、網目構造自体を空間的に分解できる密度で超解像マッピングして形状的特性との相関を得ること、また、さらにそれを繰り返して動的特性まで得ることを目指す。すなわち、【1】アクチン膜骨格バネ弾性定量法の確立、【2】超解像弾性マッピング像の取得、【3】超解像弾性マッピング像による細胞運動の解析、の3つを目的とする。本年度は以下の進捗があった。 (1) 観察単位時間(フレーム時間)に得られるフォトン放射数が多いほど、高い1分子位置決め精度が得られ、膜貫通型タンパク質がアクチン膜骨格に結合し、停留している期間に示す構造揺らぎを正しく見積もることができる。前年度に引き続き蛍光色素の探索を進め、各種蛍光色素の100マイクロ秒フレーム時間における飽和放射速度 (励起光強度をそれ以上大きくしても放射フォトン数が増えない状態) を調べた。Alexa555とAtto550が、従来最も結果の良かったCy3と近い特性を示し、ともに位置決め精度は約 20 nm であったが、Cy3を超える結果は得られなかった。 (2) 点像分布関数の幅、フレーム時間あたりの放射フォトン数と背景ノイズから、静止状態を仮定した蛍光色素1分子の位置決めエラーを見積る方法を確立することにより、アクチン膜骨格結合分子の超高速1分子観察の軌跡からその寄与を差し引き、アクチン膜骨格のバネ弾性を定量することができるようになった。 (3) 目的【3】の準備として、接着斑構成分子のパキシリン、もしくはビンキュリンをノックアウトしたMEF細胞に、それぞれの超解像プローブmEos3.2融合タンパク質を導入し、融合タンパク質分子を野生型MEF細胞中の内在性分子と同程度安定発現した細胞株を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、点像分布関数の幅、フレーム時間あたりの放射フォトン数と背景ノイズから、静止状態を仮定した蛍光色素1分子の位置決めエラーを見積る方法を確立することにより、アクチン膜骨格に結合して停留した分子の超高速1分子観察の軌跡からその寄与を差し引き、アクチン膜骨格のバネ弾性を定量することができるようになった。2020年度はこの計算を自作の1分子追跡ソフトに組み込み、超解像弾性マッピング像を直ちに得られるようにする。観察に適した蛍光色素の候補がこれまでに3種類得られたので、2020年度はこれらの色素を対象に、超高速観察下で、1分子像の空間的な重複が起こらず、より多数の停留点を取得できるように、適度な頻度で信号の明滅 (ブリンキング) を繰り返す条件 (励起強度、酸素濃度、還元剤/酸化剤の配合) を探索して弾性マッピング画像の取得時間の短縮を図る。さらに測定を効率化するために、アクチン膜骨格への結合のオンレートが高く、短時間に何度も結合と解離を繰り返す膜貫通型プローブの開発を2019年度より開始しており、引き続きインド National Centre for Biological Science の共同研究者とともに開発を進める。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、目的【2】超解像弾性マッピング像の取得と【3】超解像弾性マッピング像による細胞運動の解析を推進する。明滅 (ブリンキング) 頻度と明状態でのフォトン放射数について最適化した1蛍光分子観察条件下で、100 nm程度に仕切られたアクチン膜骨格の網目上の多数の停留点に対してバネ弾性の定量をおこない、超解像弾性マッピング像を取得する。膜骨格の構造揺らぎが観察単位時間 (フレーム時間) 内に平均化を受けることによるバネ弾性の過大評価と、トータルの観察時間内に網目全体の形態変化が起きることによる空間分解能の低下を防ぐために、現在の100マイクロ秒フレーム時間 (時間分解能 10 kHz) を25マイクロ秒 (40 kHz) に改善し、トータルの観察時間を30秒以下に短縮することを目指す。確立した技術により、アクチン膜骨格の微細構造とその機械的特性 (バネ弾性) の動的時間変化を解析する。具体的には、超解像弾性マッピング像と、接着斑構成分子 (パキシリン、ビンキュリン) の超解像観察との2色同時観察を数分おきに繰り返し、動的に形成/分解されつつある接着斑の近傍での、ストレスファイバーと膜骨格網目構造の弾性マッピング像の変化を刻々と追うことにより、接着斑による細胞張力の発生機構に新たな知見をもたらす。
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