研究課題/領域番号 |
18K19006
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
安川 智之 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (40361167)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 誘電泳動 / 細胞アレイ / B細胞選択 / 濃縮 / 電気化学計測 |
研究実績の概要 |
本研究は,マイクロウェルアレイ電極を用いた誘電泳動による超高速で簡便な細胞アレイ作製技術を基盤とした,「目的とする抗体を産生するB細胞のハイスループットな選択」,「産生する抗体の蛍光(または電気化学的な)検出」および「捕捉されたポジティブ細胞の選択回収」を可能とする細胞チップの開発を目的とする. 本年度は,新規な細胞の選択的操作が可能な多点電極アレイ型誘電泳動デバイスの作製とその評価を行った.バンドアレイ電極上に細胞サイズのウェルを配列したマイクロウェルアレイ電極を作製し,もう1枚のバンドアレイ電極を直交させて配置した多点電極アレイを作製した.デバイスの上面バンドアレイ電極および下面ウェルアレイ電極間の流路に細胞を導入し,電極に交流電圧を印加すると正の誘電泳動(p-DEP,強電場領域への引力)により数秒で細胞をウェル内に導入し細胞アレイを作製できた.その後,流路内に細胞培養溶液を導入すると,余分な細胞が除去され,1ウェルに1 細胞が捕捉された単一細胞アレイを得ることができた.捕捉率は,90%以上であった.上面基板の1本のバンド電極と,下面基板の1本のバンド電極に,負の誘電泳動(n-DEP,強電場強度領域からの反発力)が作用する交流電圧を印加すると,細胞アレイの中から交流電圧を印加したバンド電極で構成された格子点のウェル内に捕捉された細胞のみを選択的にウェル外へと放出し回収することができた.電極中心間距離が120ミクロン以上の場合,格子点を構成するバンド電極に交流電圧を印加するだけで標的細胞を回収できたが,電極中心間距離が減少すると標的ウェル近傍のウェル内に捕捉された細胞もウェル外へと放出された.また,抗体を産生するハイブリドーマをウェル内に捕捉し,細胞から分泌される抗体をウェル内に固定化した抗原によって捕捉し,抗体産生細胞を識別できることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
マイクロバンドアレイ電極を組み合わせた誘電泳動デバイスを開発し,当初予定していた電極デバイスの最適化(デバイスデザイン,印加電圧,周波数,溶液導電率等)を行うことができた.これにより,細胞アレイの中から標的細胞を回収することができた.さらに,細胞のウェル外への放出時に,正の誘電泳動と負の誘電泳動を組み合わせるとウェルアレイ密度を増加させた場合においても,標的細胞を回収できる可能性を示した.本件については,昨年度の化学とマイクロ・ナノシステム学会および電気化学会にて学会発表を行った.また,上面にマクロ電極を用い,マクロ電極をスキャンすることにより細胞アレイを作製できることを示し,国際誌に論文を発表できた. マイクロウェルアレイ電極の底面に抗体や抗原を固定化しておくことにより,標的細胞を濃縮できることを示した.単一細胞アレイを作製後,負の誘電泳動を用いて細胞をウェル外へと排除した場合,表面抗原を発現した細胞や抗体を分泌するハイブリドーマは免疫反応によってウェル内に留まり,それ以外の細胞はウェル外へと除去されることがわかった.また,その際の電圧強度の最適化を行った.細胞懸濁液の導入,正の誘電泳動によるウェル内への細胞導入および負の誘電泳動による細胞の排除を繰り返すと,標的の細胞をウェル内に濃縮できる可能性が示せた. ウェル内にハイブリドーマが分泌する抗体に対する抗原を固定化しておくと,ウェルに捕捉されたハイブリドーマが分泌する抗体がウェル内に捕捉され,その抗体を蛍光標識することにより,ターゲットの抗体を分泌するハイブリドーマを識別できた. 以上のように,当初予定のデバイスの開発と細胞の選択識別に加え,多岐の操作方法や濃縮過程へと応用展開ができたため,当初の計画以上に進展していると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の研究において,正の誘電泳動を用いて大量一括,迅速,簡便に単一細胞アレイを形成できること,負の誘電泳動を用いて標的細胞のみをウェル外へと放出できることを示した.さらに,放出時に負の誘電泳動と正の誘電泳動を組み合わせると,高密度化したウェルアレイから標的細胞を放出できる可能性を示せた.本年度は,高密度化したウェルアレイを用いて標的細胞をウェル外へと選択的に放出する操作方法を確立する.各種操作条件の最適化を行う. ウェル内に捕捉された細胞の識別手法を確立する.昨年度,抗体を分泌するハイブリドーマをマイクロウェル内に捕捉し,ウェル内に固定化した抗原に分泌された抗体を捕捉することにより,ハイブリドーマの識別を行った.抗体を分泌するハイブリドーマと分泌しないミエローマ細胞の混合サンプルを用い,混合懸濁液の中から標的のハイブリドーマを,高効率で高精度に識別できるシステムへと深化させる.標的細胞の存在率が,0.1%程度(脾臓細胞内の抗体産生細胞の比率)の場合に標的の細胞を識別できるシステムを目指す.さらに,抗原固定化マイクロウェルを用いた場合には,ハイブリドーマの膜表面に提示された抗体による免疫反応により,ハイブリドーマがウェル内に非可逆的捕捉されてウェル外への放出が困難になる.そこで,分泌された抗体を細胞膜表面に固定化した抗原に捕捉することにより,ハイブリドーマの識別とウェル外への放出を達成する. 免疫化マウスから摘出したB細胞を含む脾臓細胞を用い,脾臓細胞アレイの作製とミエローマ細胞との単一異種細胞ペアをマイクロウェル内で形成し,その細胞融合によりハイブリドーマを取得する.さらに,作製されたわずかなハイブリドーマの識別および回収を行う.これにより,高効率なハイブリドーマの選択,識別,回収までを可能にし,高効率ハイブリドーマ取得法を確立する.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は,単一細胞操作法の条件の最適化を中心に研究開発を行い,操作条件に関して有用な結果を得ることができた.これまでは電極デバイスを何度も再利用が可能な条件で最適化を行うことができた.しかし,今後は,デバイス表面への細胞の非特異的な吸着抑制に関して最適化を遂行する予定であり,電極デバイスを再利用できない.そこで,最適化したデザインの電極を大量に生産し,多数の非特異吸着抑制効果を有する化学物質を用いて異なる濃度,温度,処理時間条件で処理する必要がある.また,本年度は,初年度に得られた成果を国内だけでなく海外でも国際学会において広くアピールし,国際誌への投稿も行う予定である, よって,本年度はデザインの決定した電極デバイスの大量作製のために,,ITO電極基板,リソグラフィー関連試薬,細胞培養器具および試薬等の消耗品および電極作製者の人件費として本研究費を使用する予定である.さらには,研究成果をアピールするための旅費として使用する.
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