研究課題/領域番号 |
18K19009
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
平野 篤 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (90613547)
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研究分担者 |
亀田 倫史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 主任研究員 (40415774)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | タンパク質 / カーボンナノチューブ / リフォールディング / 酸化還元 |
研究実績の概要 |
本研究では、タンパク質のリフォールディングの収率をカーボンナノチューブを用いることで向上させ、これまで開発段階でドロップ・アウトしていた数多くのタンパク質医薬品候補を再び臨床研究さらには市場に呼び戻すことを目的としている。そのために、以前発見したカーボンナノチューブとタンパク質の間の酸化還元反応を詳細に理解し、厳密に制御することで、リフォールディング収率の格段の向上を目指す。本年度は、カーボンナノチューブの原材料に由来する鉄イオンがカーボンナノチューブによるタンパク質のジスルフィド結合形成を促進するという新たな現象を発見した。 カーボンナノチューブは金属触媒を利用して合成されるため、原材料には金属が含有している。精製後にも、微量の金属イオンが残留することが知られている。今回、カーボンナノチューブの原材料とタンパク質溶液を混合する際に金属イオンキレート剤を共存させることで、共存する微量金属イオンの影響を調査した。その結果、キレート剤存在下ではタンパク質の酸化反応(ジスルフィド結合形成反応)が抑制される現象が見つかり、微量金属イオンがカーボンナノチューブとタンパク質の酸化還元反応の促進に働くことが明らかになった。今回の成果によって、タンパク質のリフォールディングには、カーボンナノチューブだけでなく、カーボンナノチューブ原材料に含まれている微量の金属イオンの影響も無視できないことが明確になり、これらはカーボンナノチューブを用いたタンパク質のリフォールディングを精密に制御するための有用な知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的であるカーボンナノチューブを利用したタンパク質のリフォールディングを実現するためには、カーボンナノチューブとタンパク質の間に働く数多くの相互作用を理解し、制御する必要がある。今年度明らかにした微量の鉄イオンの効果は、当初予想していなかったものであり、カーボンナノチューブとタンパク質の酸化還元反応に関与する新規要素である。これらの知見に加えて、分子動力学計算によって、タンパク質とカーボンナノチューブの相互作用に関する分子機構についての知見も予定通り蓄積した。これらはリフォールディングの実現に向けた重要な成果となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今回明らかにした鉄イオンによって触媒されるタンパク質のジスルフィド結合形成機構は、当初予想していたものではないが、カーボンナノチューブを利用したタンパク質のリフォールディングの実現には必須のものであると考えられる。したがって、様々な遷移金属を用いることで、カーボンナノチューブとタンパク質の間の酸化還元反応に働く微量の遷移金属の影響を体系的に理解することを当初の計画に加えて実施する予定である。これらの実験と分子動力学などによる理論的な裏付けを組み合わせながら、カーボンナノチューブを利用したタンパク質のリフォールディングの精密制御を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた技術補佐員の確保を十分に行うことができず、それに伴う人件費や消耗品等の余剰が生じた。今年度は、当初の目標を達成できるように、再度研究計画を組みなおす。
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