研究課題/領域番号 |
18K19011
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吹留 博一 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (10342841)
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研究分担者 |
松田 巌 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00343103)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | グラフェン / 分子 / 軟X線 / 光励起 |
研究実績の概要 |
【背景】 ナノ秒~マイクロ秒で生体分子が協調的に揺らぐ過程で起こる量子効果が、高効率な生体分子反応に顕著に寄与していることが認識されつつある。高効率な生体反応(酵素反応や光合成)に量子効果が顕著に寄与している。すなわち、分子生物学の中心課題は、従来の静的な構造解析を中心とした研究から、「量子効果に関与する電子状態のダイナミクス」研究へ移行すべきである。生体機能発現に関わる遷移元素(Mnなど)や軽元素(Cなど)の元素選択的な電子状態の観測が可能という利点を持つ軟X線分光は生体分子研究に最適である。しかし、軟X線分光は測定環境として真空を必要とし,生体分子の電子状態の直接観測は困難だった。 【研究目的】量子論に基づく分子生物学の実験研究の新たな領域開拓を目的として、生体分子の電子状態の元素選択的な直接観測を可能とする雰囲気制御・時間分解オペランド(=動作下)軟X線分光システムを構築する。そのために、原子レベルで薄く・化学的機械的に安定なグラフェンを、軟X線分光に必要な「真空」 環境と生体分子の機能発現に必要な「溶液」環境を仕切る窓材として採用する。この分光法を用いて、パルス・レーザー光照射によりナノ秒~マイクロ秒で揺らぐ生体分子の電子状態の変化を直接観測する。 【本年度の実績】本年度は、観測系、特に、観測用セルの中でも窓材として重要な役割を果たすグラフェンについて基礎的な研究を行った。本研究においては、窓材であるグラフェン上に位置する生体分子がポンプ光により励起された電子状態変化を観測した。その際に、窓材であるグラフェン自体がポンプ光などによる励起でどのよな変化を引き起こすのかを調べた。その結果、時間ドメインによりグラフェンの励起状態のダイナミクスが異なるという新たな研究の萌芽をみつけることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、本研究の中核を成す窓材としてのグラフェンについて、その光励起状態ダイナミクスを精密に調べることができた。その結果、窓材としてのグラフェンの有効性を確認できた。それだけでなく、フェムト秒からピコ秒、ナノ秒のスケールにおいて、光励起されたグラフェンのキャリア・ダイナミクスが時間ドメインやそれを取り巻く界面によって大きく異なるようになることを初めて明らかにすることができた。この点は、これまで明らかにされてこなかった点であり、我々独自の研究成果である。新たな研究の萌芽になり得るものと我々は考えており、今後大きな研究の萌芽となることを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の生体分子の観測に関する研究を進めていきたいと考えている。また、それでだけでなく、平成30年度の研究において我々が独自に見出した窓材として用いるグラフェンの興味深いキャリア・ダイナミクスに関しても、研究を展開していきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に独自に我々が発見した光励起のキャリア・ダイナミクス研究に展開が見られた。そのため、研究使用額が一部変更となった。2019年度は、次年度使用額を合わせて、光励起キャリア・ダイナミクスと、グラフェンの観測系について研究をあわせて研究を推進する予定である。
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