研究課題/領域番号 |
18K19012
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
関 剛斎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (40579611)
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研究分担者 |
好田 誠 東北大学, 工学研究科, 准教授 (00420000)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | スピントロニクス / スピン軌道相互作用 / スピントルク / 強磁性体 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、これまでに全く注目されてこなかった「単一の磁性体中における自己誘導型スピントルク」という新概念のスピン流現象の観測とその物理機構の理解を最終目標とし、研究を遂行している。ここで自己誘導型スピントルクとは、強磁性体に電流を流すことで生じるスピン角運動量の流れ(スピン流)と強磁性体自身の磁化との相互作用によるトルクのことを呼んでいる。スピントルクの定量評価などから得られた基本的知見を活かして新材料創製を行い、自己誘導型スピントルクのみで磁化のスイッチングや自励発振を目指す。 今年度はまず、単結晶基板上にエピタキシャル成長させたFePt単層の薄膜試料において、異常ホール電圧の高調波信号を測定することにより、自己誘導型スピントルクの定量評価を目指した。膜厚を5nmとしたFePt単層では自己誘導型スピントルクに起因した高調波信号は観測されず、一方でFePt層上にPt層を成膜することによりスピントルクによる信号が明瞭に観測された。この結果は、単層試料においても結晶や合金濃度の不均一性など空間反転対称性を破る要因を作ることが自己誘導型スピントルクを実現するために重要となることを示唆するものである。 また、FePt/Cu/FeNiの巨大磁気抵抗素子作製し、スピントルク強磁性共鳴の手法を用いてFePt中の異常ホール効果を起源とするスピントルクの定量評価にも取り組んだ。その結果、FePtのスピン異常ホール効果が大きいことを示唆する実験結果を得た。これは、大きな自己誘導型スピントルクの材料を創製する上で有用な指針となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、FePt単層膜およびFePt/Pt二層膜の二種類の試料においてスピントルクの定量評価を行い、各々のスピントルクの値を比較することで、自己誘導型スピントルクを効果的に作用させるための知見が得られた。また、FePtのスピン異常ホール効果の観測にも成功し、大きな自己誘導型スピントルクを実現するための材料探索の指針を得た。よって、今年度の研究実施内容は計画を概ね達成するものであり、研究は順調に進展しているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度得られた知見をベースに、まずは、合金組成を意図的に空間変調させたFePt薄膜を作製し、そのスピントルクの大きさを定量評価する。それにより、強磁性体自身において生じるスピントルクのメカニズムについて理解を深め、自己誘導型スピントルクの観測に繋げる。薄膜作製にはスパッタリング法を用い、スピントルクの定量評価は異常ホール効果の高調波信号測定を利用する。 これらと並行して、より大きなスピン異常ホール効果を示す物質探索にも着手する。具体的には、FePt合金のスピン異常ホール効果に対する添加元素効果や規則度依存性を調べる。 上記したメカニズムの解明および材料探索の結果をもとに、最終的には自己誘導型スピントルクによる磁化スイッチングあるいは自励発振の実証を目指す。
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