スピン圧とは、上向き電子の化学ポテンシャルと下向き電子の化学ポテンシャルの差のことを言うが、本研究はスピン圧を「局所的」かつ「電気的」に簡便に測定できる、メカニカルなプローブを開発することを目的としている。そのためにはスピン圧と電圧を変換するための機構をプローブ先端の微細なスペースに作りこむことが必要であるが、その原理に磁性体・非磁性体界面のスピン圧生成メカニズムを利用することを考えており、その構造や材質の選定が研究の要となっている。 プローブにはスピン圧を測定するための異種金属接触が存在し、湿度と酸素濃度によって劣化する問題があった。また、スピンの計測・注入効率がプローブ間で大きく異なる問題が従来から存在し、プローブ実用への大きな妨げとなっていたが、これはプローブ先端の実効的な接触面積によるもので、表面に保護層を用いることで改善が期待できることが判明した。保護層は、酸化されず、スピン拡散に優れ、キャリアが多く、摩耗の少ない物質である必要がある。 保護層となりうる物質として、近年研究が進むグラフェンに注目した。炭素原子からなる層状物質であるグラフェンはスピンの拡散に優れ、安定した物質で摩耗に強い。特にスピン拡散長は通常の金属よりも10倍~100倍程度長く、スピン圧測定の配線として用いることで大幅な能力の向上が期待できる。 本年度はこのグラフェンを用いたスピン注入・計測プローブの製作にとりかかり、制作における問題点の洗い出しを行った。
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