近年、情報化社会の急速な進展により、電子機器の低消費電力化が求められている。そこで、磁性体中の磁気モーメントの波であるスピン波(マグノン)を用いた研究が注目を集めており、「マグノニクス」と呼ばれている。スピン波を伝搬させる媒体としては強磁性体が用いられるが、絶縁体においても情報伝送を行う事ができるため、ジュール熱損失の影響がほとんどない低消費電力な電子機器の実現が期待される。本研究では、強磁性絶縁体であり磁気緩和定数が小さくスピン波伝搬媒体としてよく用いられるイットリウム鉄ガーネット(YIG;Y3Fe5O12)薄膜の磁化ダイナミクスを電界によって制御する事を目的とする。また、特にナノメートルスケールで膜厚制御された高品位なYIG薄膜をスパッタリング法により作製し、新規なナノスケールマグノニクスの開拓を目指す。 前年度までに、スパッタ成膜によるナノスケール膜厚に制御された高品位にYIG薄膜の条件出し、および電界を加えることによるスピン波共鳴周波数の変調が確認された。より詳細な解析を行った結果、この共鳴周波数の変調はジャロシンスキー守谷相互作用(DMI)の変調によって予想されるものと同じ対称性を持っていることから、外部電界によってDMIが誘起されて共鳴周波数の変調が観測されたのではないかと考えられる。また変調量は、超薄膜強磁性金属で得られるDMIの電界変調よりも大きいことが確認された。スピン波を用いた論理演算素子の実現に可能な位相のπ変調にはさらなる変調の増大が必要であることがわかった。今後、膜厚方向に電界を印加できるような構造に最適化することで、電界による変調量はさらに大きく改善できるものと考えている。
|