研究課題/領域番号 |
18K19029
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
深津 晋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60199164)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | LED / インコヒーレント光源 / パラメトリック下方変換 / 量子エンタングルメント / 同時並列生成 / モードマッピング法 / 単一光子 / アンチバンチング |
研究実績の概要 |
量子エンタングルメントは計算、通信、センシングほか量子技術体系構築への鍵を握っている。本研究では非線形光学結晶における自発パラメトリック下方変換(SPDC)に注目し、LEDに代表されるインコヒーレント光源を用いたエンタングルメント光子対発生器の開発を試みる。SPDCは偏光・時間・運動量に関するエンタングルメント生成に利用されてきたが光子対生成レートが低く、高純度エンタングルメント光子対生成にはコヒーレント光源が必要であった。本研究では、従来は顧みられなかったLEDほかインコヒーレント光源を用いた高効率・大容量エンタングルメント光子対発生を目指す。
SPDC過程では入射光モードと結晶軸方位に応じて円錐状に分布した空間モードの2光子が同時発生する。そこでLED励起SPDCの検証としてタイプII位相整合のBBO結晶を用意し、中心波長405nmのLED励起下で結晶の出力端面に発生する特徴的な交差した2つの円環の直接イメージングを試みた。ところがLED出力はコヒーレンスが低く、単モードレーザー励起の光学系を流用しても十分なSN比が確保できない。そこでフラットトップ型の光分布をもつ0.6mmコアのマルチモードファイバ結合型のLED光源を用意し、結晶とCCD間に焦点距離が一致する単レンズを挿入することによりSPDC光子の異なる空間モードを円環の位置によらず撮像面の1点に投影できる新しいモードマッピング法を適用し、円環の高輝度化に成功した。なお、円環の同定にとって障害となる大きな自然放出光の背景は、e偏光励起光と相関する成分のみを抽出することによって除去した。さらに対向する円環交差部で検出される光子対の時間相関を利用することでHanbury-Brown-Twiss干渉計SPDC単一光子の明瞭なアンチバンチングを検証した。また量子情報分野等におけるLED励起単一光子発生器の応用展開を模索した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二次光学非線形結晶BBOを用いてSPDC相関二光子対発生が連続光イメージングレベルで検証できたことは、LED励起下でも高計数率の単一光子ストリームが確保できることを意味する。実際、Hanbury-Brown-Twiss型二光子干渉計おいて同時二次相関値0.05が得られたが、これは単一モードレーザー励起と比べて遜色ない結果であると同時にSPDC光子が単一光子であるとの予測と矛盾しない結果である。これらの結果は、次のステップであるエンタングルメント生成への重要な足がかりとなる。さらにLED励起によればレーザーでは到達できない広帯域の単一光子発生器も構築可能であり、情報処理のみならずバイオセンシングなど広範な応用展開への道が拓けることから積極的にその可能性を模索した。一方、可搬性と可塑性の観点からSPDC光子対発生に有機無機ハイブリッド系物質の光学非線形特性を登用すべく予備検証的な調査を行うとともに、量子情報処理、相関イメージング・分光などLED励起非古典光源活用へのみちすじをつけた。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度では、LED励起によるエンタングルメント生成について検討する。レーザー励起にくらべて一桁以上小さくなる単計数の値をモードマッピング法とファイバ結合LEDの面入出力結合特性を活かして補償し、同時並列的な光子計数の増大はもとより高純度量子エンタングルメント生成へと進展させることを目指す。さらに前段階で開発したLED励起単一光子発生器のさらなる進化形を模索する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
単一光子状態や多光子エンタングル状態など非古典的な光を発生する上では、それらの検証実験が不可欠である。ここでは二光子干渉計を用いるが、時系列の光子検出事象を事後選択的にデータ処理することでトリガーパルスを含む複数の同時計数を行う必要がある。この際、時間ーデジタル変換器が必須であるが、現有の装置では2入力ポートしか確保でないことからFPGAの登用も含めて総合的に判断した結果、新たに機器を購入することにした。汎用性と可搬性の観点からUSBインターフェースを装備し、かつオープンソースで同時測定プログラムが自由に設計できる必要があり、市販機器群から適切な機種を選定するのに予想よりも時間を要した。最近になってようやく適切なモデルの選定ができ、これを用いて所望の成果を得るべく、今後、研究を加速させる。
|