量子エンタングルメントあるいは量子もつれと呼ばれる非古典的な多体系の性質は、量子物理・量子情報の根幹をなす概念であり、古典限界を打破できる新技術体系構築への鍵を握っている。エンタングルした光子ペアの生成には、非線形光学効果の一種である自発的パラメトリック下方変換(SPDC)が広く用いられてきたが、光子対の純度と生成レート間のトレードオフのために励起光源がレーザーなどコヒーレンスの高い光源に限定されてきた。本研究では、これとは対照的にLEDなど安価にハイパワーが得られる低コヒーレンス光源を用いた高純度・高効率・大容量のエンタングルメント光源への基礎の形成を目指している。最終年度では、前年度に達成したLED励起では初めとなる伝令付き単一光子発生の成果に立脚し、エンタングルメント光子ペア発生への重要なベンチマークテストの位置づけにあるHong-Ou-Mandel(HOM)2光子干渉の発生検証を試みた。
SPDC計数率の向上を狙って非線形光学結晶としてタイプ-I型のBiBOを採用し、中心波長が405nm、0.6mmコアのマルチモードファイバー結合型LEDを用いてこれを励起した。単レンズを用いた縮退モードマッピングにより結晶出力端に発生する円環を非同軸的にコリメートし、HOM 2光子干渉計を構成するシングルモードファイバ製の 2 × 2 カプラに結合させた。一方のアームまでの距離を連続的に変化させながら2ポート出力を光子検出器を用いてモニタした。低計数レートゆえに揺らぎこそ小さくないものの同時検出数の測定結果は、ほぼ理論予測どおりに光路差0においてボゾン統計にしたがうバンチング(同時計数がほぼ0)の明瞭な傾向を示し、これをもってHOMティップの発生を検証した。 今回の結果は、SPDC光子の単一光子性を補強すると同時に、バルク非線形結晶を用いた LED 励起のエンタング光子生成がほぼ手の届く範囲 にあることを示している。
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