研究課題/領域番号 |
18K19032
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
川田 善正 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70221900)
|
研究分担者 |
居波 渉 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (30542815)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 超解像顕微鏡 / 光学顕微鏡 / 電子顕微鏡 / イオンセンサー / イオンチャネル |
研究実績の概要 |
本研究では、イオン感応膜の電荷検出に集束電子線を用いることにより、ナノスケールの分解能をもつイオンイメージングシステムを実現するとともに、細胞の単一イオンチャンネルを観察可能なシステムを実現することを目的とする。細胞内におけるイオンは、信号の伝達などに寄与し、イオンチャネルを通して流入・流出を行い、濃度を調整している。イオンチャネルは数10ナノメートルのタンパク質であるため、従来の手法では空間分解能の制限により、イオンチャネルの機能を直接観察することはできない。 研究代表者がこれまで進めてきた電子線励起アシスト光学顕微鏡をイオンチャンネルの観察に応用することにより、従来のイオンセンサーに比べて圧倒的に高い分解能を有するイオンイメージングシステムを実現する。集束電子線を用いて電荷分布を検出するため、ナノメートルスケールの空間分解能を実現することが可能であり、さらに微小領域に電子線を照射することにより、細胞刺激や試料の電荷制御も可能となる。LSIの集積化技術を用いたセンサーや光学顕微鏡などに比べて加工精度や回折限界の制限を受けないため、飛躍的に空間分解能を向上させることができる。 今年度はイオンセンサーに用いる基板の膜構造の最適化を行なった。まずイオンセンサーとして用いる基板の特性を評価するために、SiO2/Si基板を用いて、光照射により生じる電流を検出した。光照射によるpHを測定し、基板がイオン官能膜として機能することを確認した。 作製した基板を用いて、電子線照射によるイオン検出を行った。電子線を変調して照射し、それに同期したイオン電流を得ることに成功した。イオン分布の2次元観察を行い、測定したシステムの空間分解能を評価し、30μm程度の空間分解能を得ることに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は電子線検出型のイオンセンサーの基礎実験システムを構築し、イオン感応膜の構成、電子線照射による電荷検出の原理検証、感度、イオン分布の検出の検証などを実施した。 本研究では、イオン感応膜によって電子線が散乱され空間分解能が低下することから、イオン感応膜の構成が大きなポイントの一つになる。50nm程度の厚みのSi3N4基板をイオン感応膜として使用し、SiO2を絶縁膜、n型半導体の多層膜をベースとし、膜厚、半導体内の不純物濃度等による検出電流、空間分解能などを評価し、最適な膜構成を検討した。さらに、モンテカルロシミュレーションによる電子線散乱を解析し、達成可能な空間分解能を評価した。数値解析結果からイオン膜の構成および膜厚に関する空間分解能、感度を評価し、最適な膜構成を検討した。その結果から、膜の作製方法についても検討し、研磨による薄膜化、MEMS技術による薄膜化など、薄膜の作製方法について検討した。その結果、研磨により作製した基板を用いて、30μmの空間分解能を得ることに成功した。またMEMS技術を用いた薄膜において、光照射によるpHを測定し、基板がイオン官能膜として機能することを確認した。光照射および電子線照射によって、高感度にイオン濃度を検出可能であることを示した。この解析結果を基礎実験システムにフィードバックし、システムを最適化した。電子線の加速電圧、照射電流量、収束スポットの大きさなどを評価し、計測システムの基礎特性を明らかにした。 これらの研究成果から、高分解能イオンセンサーの基礎特性の解明および最適化に関する研究は順調に進行しており、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、基礎システムと数値解析結果の比較検討からシステムの問題点を明らかにするとともに、その解決方法を検討し、高い空間分解能と感度を有するイオンセンサーを実現する。これまでに厚さ625 μmのSiN/SiO2/Siイオンセンサー基板を研磨により、20 μm 薄膜化することが可能であることを確認した。しかし、洗浄や基板をホルダーに固定する際に基板が破損してしまうこともあったため、研磨による薄膜化の限界を明確にする必要があるものと考える。また、薄膜化した基板は 1cm 角の大きさに切断して使用していたものの、実際のセンサー領域は、φ 0.5 mm の領域 であるため、この領域のみを選択的に薄膜化するための手法を検討することが必要と考える。基板の一部分のみを選択的に薄膜化することにより、さらなる空間分解能の向上が期待できるものと考える。 イオンチャンネルをモデル化した脂質二重層膜におけるイオン検出の感度、空間分解能を評価し、その結果をもとにHeLaなど、実際の生きた細胞の観察を行い、そのシステムの性能を評価する。また、イオンセンサーはイオン電極として血液検査などの生体試料分析にも用いられている。生体細胞はイオンの授受により活動を維持していることから、イオンの動きを本システムにより可視化することで、病気の早期診断、生命科学の基礎研究の進展につなげることの可能性を検討する。細胞内外に局所的に存在しているイオン分布を高分解能かつリアルタイムにイメージングすることにより、細胞機能の解明に資するシステムを開発する。
|