研究課題/領域番号 |
18K19042
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
簡 梅芳 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (20533186)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | レアメタル / 酵母 / モリブデン / 生物濃縮 |
研究実績の概要 |
レアメタルの生物学的濃縮・回収技術の確立のため、まず金属応答遺伝子の探索を始めた。水銀耐性細菌Bacillus megaterium MB1株は有機水銀を効率よく分解できることを確認し、さらにMB1株の有機水銀分解酵素MerB3は猛毒のフェニル水銀に強い親和性をもつことがわかり、MerB3は生物学的水銀解毒剤とするポテンシャルがあることを示唆し、また基質親和性を金属応答性の指標とすることは有効であることを証明した。これらの成果を英文論文にしてJournal of Environmental Biotechnologyに投稿し、掲載が決定した。 モリブデン吸着遺伝子について、モリブデンを特異的結合する大腸菌由来のModEタンパク質のC末端配列と、細胞表面に局在・固定する配列、レポーター遺伝子の蛍光遺伝子などを融合遺伝子に作製した。その融合遺伝子を酵母に付加させた。作製した酵母の細胞表面における融合遺伝子の発現は蛍光顕微鏡により確認した。組換え酵母を用いたモリブデン吸着実験では、モリブデン溶液から有効にモリブデンを回収することが確認できた。組換え酵母の生育ステージ、吸着時間、振とう条件などの吸着条件を検討し、24時間培養した酵母を1時間振とうの条件において最大75%の吸着率を示したことがわかった。また、低濃度のモリブデン溶液への適用を図り、融合遺伝子の上流にあるプロモーターを変えた。その結果、0.1 ppmまで有効に溶液からモリブデンを吸着できるように成功した。上記の研究成果を、2019年3月に東京農業大学にて開催された日本農芸化学会において、演題「Bioengineering of a stable molybdate binding system using Saccharomyces cerevisiae」として発表した。また、現在英文論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属応答性遺伝子の探索について、水銀化合物に対する応答性を指標として、水銀分解酵素MerB3の特徴をして英文論文として掲載が決まった。また、モリブデンを効率的かつ選択的に濃縮・回収するシステムの開発について、本研究が計画した三つの項目のうち、研究項目①モリブデン吸着遺伝子の探索については、大腸菌からモリブデンを効率的に結合するタンパク質の遺伝子を選定することができた。研究項目②レアメタルの濃縮システムの構築については、酵母を吸着・回収担体とし、反応速度の速い細胞表層吸着法を選定して行った。研究項目①で取得したモリブデン吸着遺伝子と、足場となる細胞表層に局在・固定する配列を酵母に組み込み、モリブデンを細胞表層に吸着する酵母を作製した。作製したモリブデン吸着酵母を用いた吸着性能試験により、最大吸着速度および吸着能、そのための細胞培養・処理の諸条件を計画通り決定できた。さらに、プロモーターを変えることにより、低濃度でモリブデン回収を可能にした。また、研究項目③繰り返して利用可能なレアメタルの濃縮・回収システムの技術基盤の確立について、濃縮したモリブデンの回収と酵母の再利用方法について現在検討しており、上記の研究成果により、当初の計画通り研究遂行されていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まずは現在作製したモリブデン吸着酵母を用いた回収実験より、各濃度のモリブデン溶液からの回収効率を明らかにする。また、吸着効率をさらに向上させるために、現在は細胞表層に提示する工法で構築しているが、細胞表層に複数のタンパク質を構築する加工の工法を試みる。 次に、研究計画のうちの項目③繰り返して利用可能なレアメタルの濃縮・回収システムの技術基盤の確立:酵母に濃縮されたモリブデンを容易に回収することを図り、モリブデン誘導プロモーターを細胞凝集遺伝子の上流に構築し、現在作製したモリブデン吸着酵母に導入する。形質転換酵母によるモリブデン吸着時の細胞凝集を実験で実証するとともに、回収したモリブデンを酵母から脱着させ、脱着した酵母の再利用を図る。脱着には再利用できる金属キレート剤または化学的な手法を検討し、モリブデンの濃縮・回収システムの繰り返し利用可能性を技術的に証明する。 その次には、モリブデン吸着酵母を固定することによって、より高密度の酵母細胞を吸着反応に用いることができること、また固定することにより吸着酵母の取り扱い上の利便性の向上を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度が計画した研究内容を行い、2019年3月の会計が締めるまでは、1209円の残金があったため、2019年度の物品費に合わせて使用する計画で対応した。
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