研究課題/領域番号 |
18K19043
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中瀬 正彦 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (70744332)
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研究分担者 |
松村 大樹 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (30425566)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ゲル液抽出法 / ハイドロゲル / f元素分離 / 錯体化学 / 放射光XAFS / 時分割XAFS |
研究実績の概要 |
原子力で発生する使用済燃料再処理で発生する高レベル廃液において、マイナーアクチノイド(MA)とランタノイド(Ln)といったf元素分離は放射毒性の大幅低減とごみの安定・減溶化に繋がる。しかしf元素の化学的性質の類似性からMA/Ln分離剤開発は世界的な手詰まり状態にある。閉塞状態を打破するため, 本研究では刺激応答性ゲルを用いた“錯形成空間の制御”による高度分離の実験的・理論的成立性を探索することを目的とした。配位子をゲルに取り込ませることで新たに増える諸因子(局所水環境変化、高分子鎖、ゲル膨潤収縮特性等)が選択的錯形成・イオン認識に及ぼす影響, 溶液中とゲル中の錯体構造の差異を種々の分析化学・溶液化学的手法, 構造的手法を用いた調査により、錯形成空間制御に基づくf元素高度認識・分離達成を目指す。 初年度はN,Oハイブリッドドナー系配位子、例えばピリジンジアミド、モノアミド、ポリアミノカルボン酸(水溶性錯化剤)に重合性官能基を付し、更に系統的に側鎖構造を変化させた架橋剤型配位子を新規合成した。これら配位子を感温性N-イソプロピルクリルアミドとの共重合ゲルを合成した。配位子の性能評価として電位差滴定やUV-vis滴定による酸乖離定数と錯形成性定数を取得し、f元素としてウラン、トリウム、ランタノイドについて吸着に及ぼす酸濃度、吸着温度、振とう時間依存性、吸着等温線を取得した。構造的アプローチとしては溶液とゲル中での錯体構造の差異を単結晶X線構造解析と放射光EXAFS(SPring-8, BL14B1, BL22XU)により探査した。本年度はコンベンショナルなXAFSで架橋剤型配位子とランタノイドとの錯体構造を各温度で取得した。来年度時分割XAFS法により昇温過程での錯体構造変化を調査し、全ての知見を纏めて錯体構造の可制御性と外部刺激応答性を論じる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はゲルに搭載するための配位子と、それを搭載したゲルの合成から開始した。合成した吸着剤を用いて、溶媒抽出時とのf元素抽出挙動の差異を調べたところ、例えばウランとトリウムについてイオン認識性に差異が見られた。ウラン、トリウムの抽出、吸着実験は東北大学金属材料研究所アルファ放射体実験室における施設利用共同研究を利用して行った。構造的なアプローチとしては、合成した配位子とランタノイドの単結晶を合成し幾つかの構造を解析した。その上でSPring-8のBL14B1において、5~60℃の各温度での溶液中ならびにゲル中での錯体構造を調査した。理論フィッティングは実施途中である。これまでに得られたf元素のイオン認識性と錯体構造に関する知見は国内会議発表、国際会議発表、論文投稿まで行った。概ね実験は計画通りに進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は昨年度取得した吸着データや構造データの取得を継続する。コンベンショナルなEXAFS実験データをベースとして、温度ならびに昇温速度を変化させた際の錯体構造変化の変化を計測し、理論フィッティングまでを完遂する。一連のランタノイドの吸着分離挙動との相関に関する知見をもとに再度配位子と吸着材の最適化を行い、高度なf元素認識を目指す。高分子物性に関しても併せて取得を進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者について、物品(消耗品)を購入しなくても放射光実験が実施出来たため次年度に繰り越した。次年度に合わせて実験に必要な物品購入と旅費として執行予定。
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