研究課題/領域番号 |
18K19045
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
笹木 圭子 九州大学, 工学研究院, 教授 (30311525)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 炭素質頁岩 / 超難処理金鉱石 / リグニンペルオキシダーゼ / マンガンペルオキシダーゼ / 鉄酸化菌 / 硫化鉱物 / 金回収率 / QEMSCAN |
研究実績の概要 |
DRGO中の炭素分に着目し、他の成分の影響を排除するために、DRGO中の多環芳香族成分のモデル物質として活性炭を用いて、P. chrysosporiumに由来する粗酵素抽出液による分解反応を固体残渣の特性化およびAu(CN)2-イオンの吸着試験により評価した。粗酵素抽出液は活性炭の芳香族炭素のC=C結合を分解し、脂肪族炭素などに変質した。またそれは完全に可溶化していなくとも、アルカリ易溶性に変質し、グラファイト性の炭素の分解に効果があるものと予測された。P. chrysosporiumに由来する粗酵素抽出液中の鍵となる二つの酵素LiPとMnPは、互いにそれぞれの基質を奪い合う関係にあり、それぞれの活性を測定することは困難であったが、これらの濃度をキャピラリー電気泳動法により定量することに成功した。P. chrysosporiumに由来する粗酵素抽出液中の鍵となる二つの酵素LiPとMnPは、互いにそれぞれの基質を奪い合う関係にあり、それぞれの活性を測定することは困難であったが、これらの濃度をキャピラリー電気泳動法により定量することに成功した。次年度計画の前倒しとして、この粗酵素抽出液により実際のグラファイト質金鉱石と反応させ、金回収率が向上することを確認した。酵素反応だけでは硫化鉱物を効果的に分解できなかったため、鉄酸化菌によるバイオオキシデーションを組み合わせることによって、金回収率を24%から92%にまで向上させることに成功した。 成果は国際ジャーナルに2報投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
鉄酸化菌だけによってバイオ処理した場合には80%弱の金回収率にとどまるものの、酵素処理をくわえて、さらにアルカリ洗浄することによって、90%以上の金回収率に上昇したことから、シークエンシャルバイオトリートメントの妥当性を示している。酵素処理の段階で起こっている反応機構をQEMSCANによるマクロ観察から初めて推定でき、アルカリ洗浄が必要な理由も明らかとなった。このように、次年度の研究計画の一部を前倒しで実施し、金回収率の損失を10%以下とする目標を達成している。もちろんこの数字は鉱石(とくに鉱石中の金含有量、炭素質頁岩のタイプおよび含有量、硫化鉱物の含有量など)によって、さらにシアン化処理の条件(温度、時間、アルカリ濃度)も変わるものであるが、数百度以上の高温処理を必要とせず、それぞれのステップを2週間以内の時間で完了させ、超難処理金鉱石から90%以上の金回収率を達成したことは、予想以上の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
申請者が実行委員長およびInternational Scientific CommitteeをつとめるInternational Biohydrometallurgy Symposium 2019 (IBS 2019)では、200件中10件以上の炭素質金鉱石のバイオ処理に関するアブストラクトが集まり、この分野では注目されているトピックスである。そのなかで、古細菌と白色腐朽菌を組み合わせたバイオ処理は他に例を見ない手法となっており、他のいずれの方法によっても90%以上の金回収率を明記したものは見当たらない。したがって。本研究は独自性の強い内容になっている。今後は、炭素分の変質のしかたを原子レベルで理解し、他の炭素質金鉱石にも応用するための柔軟な指針を示していくことをめざす。含有率が数%足らずの微量かつ軽元素である炭素分に注目したキャラクタリゼーションは挑戦的であり、種々の分光法と、間接的な手法であるシアン化金錯体の吸着量を総合して、複雑な金鉱石のバイオ処理による変質挙動を総合的に理解していく。また、このテーマに関して、資源国であり先進的研究パートナーとなる南アや豪州とも交流を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に中心的な役割を果たしている博士後期課程大学院生がJSPS特別研究員DC2に採用され、特別研究員奨励費を受けることになったこと、財団の基金による研究助成が受けられたこと、次年度に本研究に従事する学生が増える見通しがあり、QEMSCANの利用にあたり海外渡航費・滞在費などまとまった経費を確保したかったことなどから、基金化制度を活用して支出計画を補正することとした。
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