ナノ秒パルスレーザーとリング型共振器を利用したキャビティ・リングダウン(CRD)装置の試作とその性能評価を通して,気体キラル分子の旋光分散・円二色性スペクトル計測へのCRD吸収分光法の応用の可能性を探ることが本研究の目的である.昨年度までに,bow-tie配置のリング型共振器を用いたCRD吸収分光法によって,雰囲気大気中の酸素のb-X遷移スペクトルが測定可能であることは確認している.最終年度に当たる本年度は,試作したbow-tie型CRD装置の旋光計への応用の可能性を探るべく,共振器内を周回する光の偏光特性を調査した.共振器ミラーついてS波,またはP波に相当する直線偏光のみを共振器内に導入した場合には,入射光は偏光面を維持したまま直線偏光として共振器内を周回する.一方,S波とP波の両成分を併せ持つ直線偏光を導入した場合には,ミラーでの反射によって生じる位相変化がS波とP波で異なるため,共振器を周回する光は直線偏光を維持できない.しかし,共振器内に波長板を1枚だけ挿入することで,直線偏光を維持しつつ,共振器周回にともなって入射光の偏光面が回転する状況を作り出せることを見いだした.さらに,この共振器を利用することで,CRD法によってBK7ガラス板の磁気旋光(Faraday回転)を計測できることが確認された.今回見いだした手法を用いれば,気体の自然光学活性の計測も可能であると考えられることから,本研究の目的は十分に達成されたと考えられる.
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