顕微鏡には400年以上の歴史がある。その開発当初から生物系の研究に用いられており、様々な顕微鏡が提案されてきた。しかし、未だに細胞内部を分子レベルで観察できる方法はない。今年のノーベル化学賞を受賞した「クライオ電子顕微鏡」でも、電子線の平均自由行程が短いため(数百nm)細胞全体を見渡すことが出来ず、電子線照射による試料へのダメージが大きいため生体分子の一分子観察ができない。クライオ電顕は金属表面の観察では原子分解能があるために万能と思われがちだが、生体試料の場合には乗り越えなければならない課題がある。蛍光顕微鏡にはこれらの課題がないかわりに、分解能がクライオ電顕にはるかに及ばなかった。これは2014年にノーベル化学賞を受賞した「超解像蛍光顕微鏡」でも同様である。このため、生命現象の可視化に向けた競争が世界中で繰り広げられている。 今年、研究代表者らはOff-Focus結像系を用いたクライオ蛍光顕微鏡によって、色素1分子の三次元位置を<1 nmの標準誤差で決定することに成功した[古林ら; J. Am. Chem. Soc.・139号・8990・2017年]。蛍光顕微鏡の三次元分解能も分子レベルに達した。しかし、Off-Focus系は背景光に弱いため、細胞のような背景光が高い系には不向きであることが分かってきた。 当該年度は、高い背景光除去能力を持ちながら、ナノメールの精度で三次元位置決定ができるMulti-Focus結像系を開発することを目標にして、顕微鏡開発をおこなった。その結果、Multi-Focus結像系の開発に成功し、1分子の三次元位置を1ナノメートルの精度で決定することに成功した。
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