研究課題/領域番号 |
18K19061
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
内藤 俊雄 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 教授 (20227713)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 光貯蔵物質 / 分子結晶 / 金錯体 / 電荷移動錯体 / 電荷移動遷移 / 光励起状態 / ビピリジル / メチルビオロゲン |
研究実績の概要 |
申請書に書いた研究計画に沿って紫外線のエネルギーを保持すると期待される新物質の合成を行い、紫外線(240-450 nm;5分間)照射中と照射後(緩和中)の結晶構造と電子状態を実験と理論計算で継続的に追跡した。具体的には結晶構造解析(単結晶X線構造解析)、電子スピン共鳴(ESR)、第一原理計算によるエネルギーの見積もりを行った。その結果、光照射(を止めてから)後約10時間を境目に、緩和前半は急激なエネルギーの減衰(外界への放出)、緩和後半はエネルギー、構造、ESR信号に共通して定在波のような振動が見られ、コヒーレントフォノンと解釈できる結晶内での格子振動によって光子から受け取ったエネルギーの一部を弾性エネルギーとして保持していると解釈した。この振動は光を止めてから約7か月半後でも存在し、非常に遅いペースで減衰していった。また紫外光照射を低温(128 Kまたは148 K)で行った場合は、光を消してから3時間たってもESR信号に減衰は全く見られなかった。この物質は紫外光を当てない限り不対電子を生じないため、ESR信号が出るということは紫外光による励起状態が残っていることを意味する。当初の目的(目標)ではこうした低温で2か月半(10週間)ほど紫外光から受けたエネルギーの一部を保持できる物質を目指した。ところが実際には室温のままでも7か月半(以上)も保持できる物質を見い出したことになる。しかもその機構も解明したため、この成果は大変重要である。現在追加の実験を行い、同時に論文の執筆も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上述のように次の3点の成果による。(1)低温に試料を保たなくても紫外光のエネルギーを保てる物質を見出したこと、(2)申請時の紫外光のエネルギ―保持時間の目標は低温で約10週間(2か月半)であったが、これを室温で大幅に上回る(7か月半)物質を開発したこと、(3)非常に意外なエネルギー保持機構を解明したこと。特に3点目は、光励起状態が関係する物質の機能の研究、例えば太陽電池、各種発光物質、光合成、光触媒などに共通して関連する現象を含んでいる可能性が考えられ、緩和機構に関する重要な知見を提供できると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
更に関連物質を系統的に開発し、その構造と電子物性を測定していく。より簡便で安価に合成が行える物質で、さらに保持時間が長い物質を探していく。また蓄えたエネルギーを取り出す方法を探索する。音波の照射や機械的な刺激、圧力印加、急激な温度変化など発光が期待できる手段をいろいろ試行錯誤する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で予定していた国内外の学会に参加するための出張費や学外に実験に行くための出張費が使えなかったため。繰り越し分は、試薬や共通機器利用料など消耗品、および学会に参加して当該の研究成果を発表するための国内旅費に充てる予定である。
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