研究課題/領域番号 |
18K19062
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
手木 芳男 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00180068)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | πラジカル / 増強系間交差 / フェムト秒系間交差 / πトポロジー / 過渡吸収 / ペンタセン-ラジカル連結系 / 励起状態ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本課題では、(1)交換相互作用とπラジカルの超高速励起状態ダイナミクスの関係解明、(2)ラジカル付加による基底状態への超高速失活現象の励起状態で のスピン準位依存性の解明、(3)純有機おけるフェムト秒領域の系間交差と超高速失活の実現 の3課題を設定し研究を遂行した。昨年度までに、π電子軌道のつながり方(πトポロジー)を制御して励起スピン状態を変えた系としてペンタセン骨格を挟んでtriisopropylsilylethynyl 基(TIPS基)とp-ethynylphenylverdazylを連結した系(1p)及びm-ethynylphenylverdazylを連結した系(1m)の合成に成功した。また、ラジカル種をiminonitroxideに変えた系の合成にも成功し、それらの光耐久性を明らかにしてきた。昨年ラジカル種の確認まで成功したt-ブチルニトロキシドラジカル系についても単離を試みたが、これに関しては系の不安定性のため成功しなかった。そこで、1p及び1mの過渡吸収測定を重点的に実施した。比較試料としてTIPS-ペンタセンの励起状態ダイナミクスの測定も行った。昨年度の測定では十分に観測できなかったペンタセン-ラジカル連結系のペンタセン部位が励起一重項状態から励起三重項状態に移行する過程の観測と、その系間交差の速度及び基底状態への失活の速度を見積もることに成功した。1p及び1mの両者においてペンタセン部位の系間交差は数百フェムト秒以内に起こっていることが確認され、本研究の到達目標である課題(3)が達成できた。また、ペンタセン部位が三重項状態に移行した状態から基底状態への失活速度は、1mが1pに比べて高速化されていることも確認できた。この結果は、課題(1)及び(2)に直結する知見である。今後、実験データの詳細な解析を行うと共に、学術論文としてまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度に引き続きπ電子軌道のつながり方(πトポロジー)が異なる系の合成とその光耐久性の評価を実施し、合成した系のフェムト秒超高速過渡吸収測定を実施する事により、昨年度は予備的な結果しか得られていなかった「πラジカルを利用した純有機系フェムト秒系間交差の実現」に成功した。COVID-19に起因する緊急事態宣言で、大学での実験停止や出張実験等の自粛により当初計画より遅延しており、延長申請を出して認められているが、申請計画の主たる目的は達成しつつある。よって、研究計画はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
合成したラジカル系の一部に純度の問題があり、収率を向上させて精製を念入りに行うことにより、この問題点を克服する。現在、特任助教として在籍中の人(有機合成を専門とする研究室出身の方)を週1日博士研究員として雇用し、ラジカル合成の速度を加速する。また、再現性の確認とやり残しているデータ収集を行い論文にするに足る実験データを得る。これにより、学会発表で成果を広く公表するとともに、学術論文としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19に起因する緊急事態宣言で、教員も含めた大学での全面的な実験停止及び登校制限に加えて出張実験等の自粛により当初計画より遅延した。未使用分はラジカル合成の速度を加速する目的で週あたり1日だけ雇用する博士研究員の人件費および、追加の合成実験や測定の消耗品に使用するとともに、学会発表経費や学術論文の出版経費に使用する。
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