ボロンジピロメテン (BODIPY) は、一般に蛍光量子収率が高く、BODIPY骨格のホウ素部位に不斉芳香族化合物であるビナフトール (BINOL) 誘導体を配位させることでキラリティを付与に伴う円偏光発光 (CPL) の発現が可能である。さらに近年では、分子集合体を形成することで多重発光に伴う近赤外発光を示すことも報告されている。以上の点を踏まえると、キラルBODIPYを用いて分子集合体を構築すると、これまでにない近赤外発光が関与するCPL発現が期待できる。本研究では、BINOL誘導体を配位させたキラルBODIPYの2、6位にフェニル基を導入した一連の誘導体を合成した 。得られたキラルBODIPY誘導体を良/貧溶媒を用いた再沈法によって分子集合体を作製した。専用基板に滴下し、電子顕微鏡で集合体の形状観察を行ったところ、導入したフェニル基の数に応じて集合体の形状変化が観察された。 次に、単量体および集合体の定常分光測定を行った。吸収および蛍光スペクトルにおいて、いずれのキラルBODIPY誘導体も集合体のスペクトルでは、スペクトルのブロード化と近赤外領域へ及ぶ長波長シフトが観測された。これは集合体内部におけるBODIPY同士のπスタッキング形成が示唆される。特に、BODIPYの2、6位に導入する置換基が発光特性に大きく影響を与えたと考えられる。さらに、S およびR体の分子集合体のCPLスペクトル測定ではS とR体で上下対称のCPLスペクトルが観測された。 また、近赤外発光と一重項分裂の関連を検証するためのアセン二量体の合成と高効率励起三重項状態の観測にも成功した。
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