研究課題/領域番号 |
18K19065
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
佐甲 徳栄 日本大学, 理工学部, 准教授 (60361565)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 光物質相互作用 / マックスウェル方程式 / シュレディンガー方程式 / 放射反作用 / ナノ物質 |
研究実績の概要 |
本研究では,光と電子系が互いにフィードバックを受けながら時間発展する「協奏的な光‐物質ダイナミクス」を記述する実用的な理論・計算方法の確立を目指した研究を行っている.研究の初年度である平成30年度は,まずこの光物質相互作用を記述する理論枠組みである「マックスウェル‐シュレディンガー連立方程式」の波数空間での詳細な分析を行った.電磁場の時間発展を記述するマックスウェル方程式と電子系の時間発展を記述するシュレディンガー方程式は,分極電流密度を介して相互に繋がっており,この相互作用の鍵となる分極電流密度において,光子成分に対応する横波成分の抽出を行った.一般に連続の方程式から導かれる実空間の分極電流は縦波・横波の両成分を複雑な形で内包しており,そこからクーロン自己相互作用に対応する縦波成分を消去する必要がある.ベクトル場の縦波/横波を規定する発散/回転の条件は波数空間では局所的となることを利用して,分極電流密度をフーリエ変換によって波数空間で表現し,波数ベクトルとの直交条件から縦波成分と横波成分の分離を行った. 具体例として,ナノスケールのポテンシャル井戸に拘束された電子が擬共鳴条件の単色光によって励起された系を考え,シンプレクティック積分法に基づく量子波束計算を行った.得られた時間依存波動関数から横波成分および縦波成分の電流密度をそれぞれ求め,両者の大きさの見積を行った.また長軸方向および短軸方向の閉じ込めポテンシャルの強度を変化させることによって,系の次元性に対する分極電流密度の縦成分と横成分の割合の依存性を調べた.その結果,系の次元性が低下するに伴い,横波成分の割合が大きく増加することが見いだされた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目的とする「互いにフィードバックを受けながら時間発展する光‐電子結合系」を記述する実用的な計算方法の確立においては,電磁場を記述するマックスウェル方程式と電子系を記述するシュレディンガー方程式とを繋ぐ分極電流密度の取り扱いが鍵となる.光によって電子波束が周期的な加速度運動をすると分極電流が発生し,一般にこの分極電流は縦波成分と横波成分の両方を内包している.一方,励起された電子が自身の周囲に形成した電磁場が入射電磁場と干渉し,再度電子に作用する所謂「自己相互作用」を正確に記述するためには,分極電流から自己クーロン相互作用に対応する縦波成分を消去する必要がある.本研究では,分極電流密度は波数空間においては局所性を持つことに着目し,時々刻々計算される分極電流密度を高速フーリエ変換を用いて波数空間表現し,波数ベクトルとの直交関係から縦波成分/横波成分の分離に成功した.このため,本研究は概ね順調に進んでいると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度に予定通り分極電流密度の導出および計算方法の確立を行ったことを受けて,H31年度以降は,開発した分極電流密度を用いてマックスウェル方程式とシュレディンガー方程式を連立し,電磁場と電子系の双方的な時間発展を可能にする計算コードの開発を行う.電磁場と電子系が結合したシステムにおいては,電子系の効果はマックスウェル方程式のソース項に分極電流密度として現れ,電磁場の効果はシュレディンガー方程式にベクトルポテンシャルとして現れる.従来の理論モデルにおいては,両方程式を結ぶこれらの分極電流密度およびベクトルポテンシャルは先見的に定義された時間変化をすると仮定し,それによって両方程式の解を独立に求めてきた.一方本来,励起した電子が放射を行うと,放出した光子が持つエネルギーおよび運動量を電子系は失い,所謂「放射反作用」を受ける.海外研究協力者と研究打ち合わせを行い,全系のエネルギー・運動量保存則を満たす形で計算システムの開発を行い,具体的な系に対して両者の保存則の確認テスト計算を行う.研究成果は随時国際会議で発表し,その成果を問うことによって,放射反作用を取り入れた新規な理論・計算方法を確立する.
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度は海外共同研究者との研究打ち合わせ(Nils Schopohl教授,ドイツ・テュービンゲン大学)を予定していたが,日程の都合がつかず渡航の延期をした.このため残金が発生した.H31年度はこの渡航を実施し,前年の未使用額をその費用として使用する.その他の研究費については予定通り使用する.
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