研究実績の概要 |
1)前年度に引き続き,リチウムイオン内包フラーレン(1)の外側に遷移金属フラグメントを配位させた錯体の合成と性質の研究を行った。Zhao,榊らの理論計算によって,ルテニウム二核錯体[Ru(CO)2(C5H5)]2がフラーレン骨格に付加する反応が,空のフラーレンの場合よりも1の場合の方が速く進行し,生成物も安定であることが予測されていた(Inorg. Chem. 2017, 56, 6746)。そこで,これを実験的に確認するために,1と当該ルテニウム錯体との反応を塩化メチレン中40℃で行ったところ,予想された二核錯体のみならず,四核,六核および八核錯体も生成していることが,質量スペクトルにより明らかになった。これらの分離には成功していない。そこで,付加する金属フラグメントの個数を制限するために,C5H5配位子をより嵩高いC5Me5配位子に換えたルテニウム二核錯体を用い,o-ジクロロベンゼン中100℃で同様の実験を行ったところ,二核錯体が主生成物として生成し,収率26%で単離に成功した。 2)フラーレンは高い電子受容能を持ち,多段階の電子授受が可能であるため,特異な支持配位子として機能し得る。これをキレート配位子の一方の端に取り付けて用いることができれば,キレート効果により安定な金属錯体が生成し,特異な機能の発現も期待できる。そこで,一端にフラーレン,他端にシリル基を持つキレート配位子の開発を行った。(ヒドロシリル)メチル基を有するN-ヘテロ環式カルベンを新たに合成し,これと空のフラーレンまたは1を反応させることにより,フラーレン骨格に対するカルベン部分の付加が起こり,ヒドロシリル基とフラーレン骨格を両端に持つキレート配位子前駆体の合成に成功した。現在,これらのキレート配位子前駆体と種々の遷移金属錯体との反応を検討中である。 いずれの研究も残念ながら学会や論文等で発表できる段階に達していない。
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