研究課題/領域番号 |
18K19068
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮本 和範 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (40403696)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 二原子炭素 / ラジカル / 超原子価 / ヨウ素 / 炭素同素体 / フラーレン / カーボンナノチューブ / グラフェン |
研究実績の概要 |
高反応性中間体には、構造・物性・反応性について、今日でも活発な議論が続いているものが数多く存在する。その中でも、特に二原子炭素(C2)は ① 炭素ー炭素間には“四重結合“が存在しうるのか?、② 炭素同素体(フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ダイヤモンドなど)の最小単位たり得るか、などの化学全体における重要な疑問への回答を秘めた興味深い研究対象である。 我々は基底状態のC2を、三価の超原子価ヨウ素化合物:アルキニルヨーダンの超脱離能を活用することにより、室温以下の穏和な条件下に有機溶媒中で発生できることを初めて明らかにした。また、このC2の溶液中での反応性を精査することにより、① C2が炭素間に四重結合性のあるビラジカルとして振舞うこと、② 溶媒の無い条件で重合し、様々な炭素同素体(フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、アモルファス炭素など)を生成することを見出した。これらの重要な知見を含む論文は国際的に高い評価を得、先日無事 Nature Communication 誌に受理された。更に、つい最近では発生したC2の直接観測、および固相反応で特定の炭素同素体を効率よく与える条件を広く精査し、前者の検討では低温ラマンスペクトル測定により、C2の気相生成を示唆する結果が得られつつある。後者からは、アルキニルヨーダンの構造と反応条件を適切にデザインすることにより、フラーレンが多く生成する条件が見つかりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、超原子価ヨウ素化合物からその発生が確認されたC2について、物理化学的性質の解明や無溶媒条件下での重合生成物の解析に挑み、その詳細について明らかにすることができました。C2は不安定活性種であるため、その直接の単離・構造決定はいまだ実現できていない課題であるものの、間接的手法によって反応生成物などから、その物理化学的性質を証明できたことは、まさに期待していた成果です。次年度の目標(C2の分光学的手法による直接観測)にも既に着手しており、重要な知見が得られつつ有ることから、最終的に十分当初の目標を実現できると考えています。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、溶液中の状態を解析できる液浸プローブを持つラマン分光光度計(React-Raman)を用いて、C2 が発生して いる様子を “その場解析” によって突き止めたいと考えています。また同時に、極低温や固相での測定も可能な電子スピン共鳴(ESR)スペクトルを用いることで、ラジカル性の有無やその挙動について精査したいと考えています。炭素同素体の生成機構についても、13C標識を導入した基質などを活用し、固体NMRなども併用して、明らかにしていきたいと考えています。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度、計画していた手法によりC2の発生を確立できたため、当初困難が想定された際に予定していた試薬、器具の購入が必要無くなりました。現在は、次年度にC2の直接観測等の証明のため、比較的高価な重水素化溶媒、13C標識試薬を購入する予定ですが、その使途に充当することを予定しています。
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