高反応性中間体には、構造・物性・反応性について、今日でも活発な議論が続いているものが数多く存在する。その中でも、特に二原子炭素(C2)は ① 炭素ー炭素間には“四重結合“が存在しうるのか?、② 炭素同素体(フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ダイヤモンドなど)の最小単位たり得るか、などの化学全体における重要な疑問への回答を秘めた興味深い研究対象である。 前年度、我々は超原子価ヨウ素試薬:アルキニルヨーダンの超脱離能を活用することにより、室温以下の穏和な条件下に有機溶媒中で始めてC2を発生できることを報告した。このとき発生するC2は基底状態の一重項状態をとることが判明している。さらに、溶媒の無い状態でこれを発生させると、自発的な重合が進行し、種々の炭素同素体(フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン、アモルファス炭素など)が生成していることを明らかにした。昨年度は、これらの生成機構をさらに詳細に調べるべく、種々の分光学的手法を用いた精査を行った結果、気相でジアセチレンが生成していることが明らかになった。これは、C2が直線的に重合してカルビンを生成するという仮説と矛盾しない。さらに、芳香族炭化水素を共存下にC2と反応させることにより、それらへの挿入反応が進行することもわかった。これらの結果はカーボンナノチューブの成長モデルの一つを支持するものであり、炭素同素体の気相成長機構解明に大きくつながる知見と考えている。
|