研究課題/領域番号 |
18K19071
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
古山 渓行 金沢大学, 物質化学系, 准教授 (30584528)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 近赤外光 / アザポルフィリン / フォトレドックス反応 / 光物理特性 |
研究実績の概要 |
近赤外光を用いたトリフルオロメチル化について引き続き検討を行い、フタロシアニンのルテニウム錯体(RuPc)が触媒として有効であることを見出した。この知見を元に、一連のRuPc誘導体を合成し、触媒活性と構造の相関について調べたところ、周辺置換基と軸配位子の組み合わせが重要であることがわかった。最適なRuPcに対して、予備的な知見であるが可視光材料の直接トリフルオロメチル化が進むことも分かった。対照実験として既知の可視光触媒を用い、可視光を用いて同様の基質の変換を試みたところ、系の複雑化が見られ、基質と触媒が同時に活性化されていることが原因と帰属できた。すなわち、近赤外光を用いて触媒のみを選択的に活性化することの有用性を示すことができた。 また、近赤外光増感能に着目して、酸化的脱水素カップリング反応の検討を新たに行なった。本反応では酸素を犠牲試薬として用いることで、フォトレドックス型の反応において問題であった触媒の小さいエネルギーギャップに起因する触媒サイクルの適用制限を緩和することを期待した。種々検討の結果、フタロシアニン亜鉛錯体を触媒とした近赤外脱水素カップリング反応に成功した。この反応では溶媒系の選択が重要となり、反応を加速させる溶媒と反応の分解を抑制する溶媒を適切な割合で組み合わせた時に、反応が選択的にかつ定量的に進むことを見出した。またこの条件は様々な基質・求核剤へ適用することができ、炭素-炭素結合形成をはじめとした様々な分子変換へ展開できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フォトレドックス型のトリフルオロメチル化反応について、中心金属の有効性を見出し、これを起点に構造-活性相関を明らかにすることができた。また予備的な結果ではあるが、可視光材料の直接変換を支持するデータも得られており、当初の目的が達成できつつある。一連の合成したフタロシアニンルテニウム錯体はそのほとんどが新規化合物であるため、フタロシアニンの構造化学という観点からも重要な知見になると期待している。 また、一連の検討で近赤外光を使ったフォトレドックス型反応における問題点も明らかになった。これを解決するために、新たな反応系として脱水素型カップリング反応を設定し、フタロシアニン亜鉛錯体が近赤外光触媒として有効であることを示すことができた。本反応はほぼ定量的にカップリング体を与え、有機合成において重要である炭素-炭素結合を形成することができる。合わせて、各種機構実験を行い、当初想定していた機構とは異なる機構で進行していることが明らかになりつつある。これは、光照射の波長が異なることで優先する光反応が異なっていることを示唆する興味深い結果であり、その他の反応へ展開するにあたり有用であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
フォトレドックス型の反応を中心に、可視光材料の直接変換の検討を進める。トリフルオロメチル化は強い電子求引基であるため、導入により材料の物性が変化することが期待できる。変換体について各種特性(光吸収・発光・電気化学特性)を評価し、本反応の有効性について検証する。 脱水素カップリングについても同様に基質適用範囲の拡大、可視光材料共存下における選択性について検討を進める。本反応で用いている810 nmの近赤外光はほとんどの物質が透過する光であることを踏まえ、様々な物質で反応容器を遮断した上で反応を検討する透過性実験も行う。また、機構実験において新たな機構の可能性が示唆されたことを踏まえて、理論計算も併用した詳細な機構解析も検討する必要があると考えている。 以上、従来適用が困難とされてきた近赤外光を用いた光反応について、反応の進行性、可視光材料との共存性、反応機構に関する研究を進めることで、有機光反応の科学において、近赤外光を可視光と同様に扱うことができる学理が確立できることを期待し、研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額であり、次年度の研究遂行に使用する予定である。 (使用計画) 引き続き、次年度以降の研究遂行のため適切に使用する。
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