深赤色から近赤外光を用いたトリフルオロメチル化においてフタロシアニンのルテニウム錯体(RuPc)が有効な触媒となるとされる前年度までの知見を踏まえて、基質の拡張の検討を行った。検討の結果、アルケンの二重官能基化反応が良好に進行することを見出した。本反応は深赤色光の照射下、様々な官能基に対して化学選択的に目的の官能基化体を定量的に与えた。また、フォトレドックス反応の特徴であるラジカル中間体を経ていることも明らかとした。従来の深赤色光を使用する光反応においては、触媒の再生のために犠牲試薬を等量用いることが反応の進行に不可欠であった一方、本反応は犠牲試薬なしで進行するレドックスニュートラルな系であることが特徴である。さらに、本反応は可視蛍光団の直接修飾も可能であった。同様の基質を可視光反応に適用したところ顕著な分解が観測されたことから、波長選択的な触媒活性化の有効性を示すことができた。 また、近赤外光を用いた酸化的脱水素カップリング反応において、種々の機構解析実験を行った。結果、本反応はこれまで同種の可視光反応において提唱されていた触媒と基質間の電子移動反応を経由する機構ではなく、光励起された触媒と酸素間でエネルギー移動反応が起きて生成した一重項酸素が反応に関与することが明らかとなった。続いて、光源と反応容器の間に可視光遮断剤を設置し、光反応に与える影響を調べた。可視光遮断剤として、従来の可視光触媒の主たる吸収帯と重なるものを用いたところ、可視光反応は顕著に阻害された一方、本近赤外光反応は遜色なく進行した。これは近赤外光が遮断剤を完全に透過しているためと考えることができ、夾雑物存在下でも選択的な反応を行えることが期待できる結果と言える。
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