研究課題/領域番号 |
18K19074
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大須賀 篤弘 京都大学, 理学研究科, 教授 (80127886)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ポルフィリン / 三重項カルベン / ラジカル / スピン非局在化 / ナイトレニウムイオン / 電子共鳴スペクトル |
研究実績の概要 |
ポルフィリン類縁体が他のπ共役系に比較して優れたラジカル種を安定化する能力を持つことが近年明らかになっており、大きな進展を見せている。当研究室においても、これまでにメゾアリールポルフィリン前駆体の水素原子を二酸化鉛で引き抜くことでオキシラジカル・アミニルラジカル・ジシアノメチルラジカルを容易に大気下安定な化合物として生成できることや、炭素原子を埋め込んだ縮環π骨格を作ることでC-H結合を失った中性ラジカルへと変換できることを見出している。また、この安定ラジカル群を分子内部に複数有する化合物の合成とその分子磁性の制御にも取り組んでおり、昨年度には、ポルフィリン縮環アミニルラジカルダイマー、シクロファン型ジシアノメチル置換クロリンダイマー、コロールラジカルダイマーなどを合成し、スピン間相互作用についての知見を得た。 強力な強磁性相互作用を与えるラジカル骨格としては、三重項カルベンが極めて有望であり、本研究ではそのポルフィリンを用いた大幅な安定化に取り組んできた。三重項カルベンの合成にあたっては、光分解によって目的物を与えるジポルフィリニルジアゾメタンの合成が鍵となるが、以前の検討ではジポルフィリニルカルバメート前駆体から新たに窒素-窒素結合を生成することができなかった。昨年度は、窒素―窒素結合を分子内部にもつカルバジン酸エステルとジポルフィニルメチルカチオンを反応させる新たな合成経路を検討することで、炭素-窒素-窒素の骨格形成を達成することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、ジポルフィニルカルベンの合成によってカルベンの寿命を大幅に更新することを目指しており、昨年度には光分解によってカルベンを生じるジアゾメタンの骨格となる炭素-窒素-窒素の骨格を形成することに成功した。さらに、脱保護と酸化によるジアゾメタンへの誘導化についても広範な検討を施しており、ジポルフィニルカルベンと酸素分子が反応した際に生じるとされるジポルフィニルケトンを主生成物として与える条件を見出した。また、緩やかな酸化により炭素-窒素二重結合を生成し、保護基であるFmocを除去、最後に二酸化鉛による酸化を行う段階的な反応でもジポルフィニルケトンを主生成物として得ている。以上の結果は、ジポルフィニルカルベンの系中での生成を強く示唆しており、昨年度の検討によってジポルフィニルカルベンの合成経路探索に大きな進展が得られたといえる。 また、その他の新規安定ラジカル種の開拓でも興味深い結果が得られた。ポルフィリン縮環アミニルラジカルダイマーは架橋構造の違いにより異なるスピン間相互作用を示した。3,7-ビス(ジシアノメチル)置換ポルフィリンの酸化によりシクロファン型クロリンダイマーを与え、その中心金属の違いにより動的共有結合性が異なっていた。メゾメゾ結合コロールダイマーに対する緩やかな酸化によりコロールラジカルダイマーを与え、それがコロールテープ合成の際の中間体であることを確かめた。
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今後の研究の推進方策 |
従来のジアリールジアゾメタン合成法はポルフィリンを含む基質に対して適用できなかったが、昨年度に実施されたジポルフィリニルカルベンの合成検討によってポルフィリン類縁体に対しても適用できる手法を見いだすことができた。一方で、系中での生成が示唆されているジポルフィリニルカルベンの空気に対する安定性は依然として不十分であると考えられる。今後は、不活性雰囲気下でジポルフィリニルカルベンの生成を分光学的に検出すること、そのスピン状態・寿命等を決定することを目指す。このため、昨年度の合成経路の改良に取り組み、最終段階での副生成物が測定に影響を与えることのない合成手法・反応系を作り出す予定である。これと並行し、ポルフィリンのベータ位に適切な置換基を導入した基質を用いて、昨年度までで確立された経路を用いた合成検討を行う。これにより十分な化学的安定性を持った三重項カルベンを創出できた場合には、ジポルフィリニルカルベンの構造・磁気特性などの詳細な調査に加えて、大きなスピン量子数を持つ多量体・分子集合体へと展開する予定である。具体的には、メゾ位のアリール基の一部を強磁性相互作用に有利なメタフェニレン架橋に変更することでカルベンを多量化させる、ポルフィリン中心の金属を磁性金属に変更することを計画している。これらの材料についてもカルベン-カルベン間およびカルベン-磁性金属間の磁気相互作用を精査するとともに、ポルフィリン中心金属への配位子の可逆的配位を用いて外部刺激に応答できるスイッチング磁性材料の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス問題により、2020年2-3月に執行する予定だった旅費やその他の予算に変更が生じた。そのため、余剰分については2020年度に繰り越して、学会などの研究集会への参加旅費として使用する予定である。
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