研究実績の概要 |
本年は目標としていたジポルフィニルカルベンの合成を達成することはできず、その安定性や寿命についての考察はできなかったが、関連する安定ラジカル種の研究および発表を中心に活動した。 メゾベータートリハロポルフィリンを基質として、1,3,5-ベンゼントリアリールアミンとの反応により、ヘリセン状に縮環したポルフィリン二量体の合成に成功した。また、ベータアルキニルポルフィリンの三量化反応と、引き続くグリニャール試薬の付加、酸縮合反応により、プロペラ型にねじれた縮環ポルフィリン三量体の合成に成功した。いずれも、ねじれを有する複雑なポルフィリン多量体構造であり、その光物性を紫外可視吸収スペクトル・蛍光スペクトル・円二色性スペクトルなどで解析した。このようなアミン骨格を有する縮環ポルフィリン多量体は、安定ラジカルカチオン種および安定ジラジカルジカチオン種を発生し安定化する基盤骨格として有用だと考えられる。 さらに、アントラセン骨格で縮合したポルフィリン二量体のジラジカル化合物は、その縮環構造の違い(パラ型、メタ型)に応じて基底一重項および基底三重項種となることが磁化率測定および理論計算から明らかになった。特に安定な基底三重項ジラジカル分子は稀有であり、高スピン化合物の新たなデザインを実証した。その比較分子として、メゾベーターペリナフタレン縮環型ポルフィリンが安定中性ラジカルとして単離可能であることがわかり、その解析も行った。
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