研究課題/領域番号 |
18K19079
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安田 誠 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40273601)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 選択性 / 芳香族 / 相互作用 / ルイス酸 / 配位子 |
研究実績の概要 |
有機化合物は芳香族化合物と脂肪族化合物に大別される。しかし、これらを選択的に見分ける触媒反応は全く前例が無い。もし有機合成戦略においてこれらを区別する方法があれば、様々な分野に多大なインパクトを与える。これらの実現を目指し、以下の検討を行い実績を得た。 (1) カゴ型ホウ素ルイス酸のπポケットの修飾 πポケットを有するカゴ型ホウ素錯体芳香環に、さまざまな置換基を導入した。電子求引基、電子供与基、立体障害の大きな置換基等を導入し、これらと芳香族選択性の相関を検討した。電子供与性の置換基が特に高い選択性を与えた。これらの相関の原因を探るために、計算化学による検討を行なった。その結果、πポケットの芳香環と基質の芳香族化合物の間に多点での分子相関が見られ、これが選択性発現の原因であることがわかった。また、立体的な影響も大きく、基質が反応場のポケットに侵入する際に大きく作用することが示唆された。この侵入の機構の解明はきわめて困難であり、現在計算化学とスペクトル解析により検討中である。 (2) πポケット状カゴ型アルミニウム錯体 ホウ素にかえてアルミニウムのπポケット錯体の合成を検討した。あらかじめ外部配位子を添加し、反応試剤であるアルキルアルミニウムの会合を解き、配位子をゆっくりと添加することで単核のアルミニウム錯体を高収率で合成することに成功した。この際、πポケットを構成する芳香環のオルト位に嵩高い置換基を導入しておくことが必須であることがわかった。このことで、アルミニウムの多核化を防ぐ効果があったと考えられる。オルト位に臭素原子を配したアルミニウム錯体が、きわめて高い選択性でグリコシル化の触媒として作用することがわかった。グリコシル化は従来、低温で緻密な反応条件の制御が必要であったが、今回見出した系は、室温下、簡便な操作で高収率・高選択性を達成できるきわめて画期的な結果を与えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の最大のテーマである芳香族選択的反応に関して、πポケット置換基と選択性の相関の結果が得られたことは、きわめて大きな成果である。また、量子化学計算によりその原因が判明し、今後の分子設計の指針を与えたこともたいへん大きな成果である。検討した置換基の選択が適切なものであったことが、本来の計画よりも進展した原因である。非常に多くのカゴ型ホウ素錯体の誘導体の合成にも成功し、芳香族選択性の結果を与えるのみならず、それぞれの錯体が新しいルイス酸性を有する触媒として、他の反応系に活用できる可能性も与え、その点においても価値のある結果であると判断している。 また、芳香族選択的反応の系として、従来の付加環化反応だけではなく、アリル化、アルドール型反応等にも応用できることが判明し、芳香族選択的反応の実用的価値を示すことができた。また、アルキル置換基を有するカゴ型ホウ素錯体を初めて合成することに成功し、この錯体が芳香族選択性を示すことはなく、π電子の相関が芳香族選択性に重要であることを実証した。一方で、このアルキル置換のカゴ型ホウ素錯体は、従来の錯体に比べて安定かつルイス酸性が高く、今後の新しい分子設計において、重要な指針を与えた。 さらに、πポケットの芳香族置換基として、縮合多環芳香族を配した場合、光照射による選択性の向上が見られた。これは、予想外の新しい結果であり、従来の計画を超える成果が得られた。この系を芳香族選択性の新しい制御法として位置付け、検討を加えていくこととした。 また、ホウ素にかえて、アルミニウム錯体の合成に成功したことから、この芳香族選択的な反応も実現可能な段階に入った。元素を変えることはたいへん大きな変化をもたらし、新しい制御因子として発展が強く期待できる成果となった。このようなことから、当初の計画以上に本研究は進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
カゴ型ホウ素錯体だけでなく、カゴ型アルミニウム錯体が合成に成功し、これが高い選択性を与えることがわかったため、急遽この研究を推進することとした。したがって、アルミニウム錯体の研究を中心にその高選択性の原因をつきとめるとともに、さらなる選択性の向上と、基質の拡張をめざす。また、分子内に芳香族部位と脂肪族部位を有するカルボニル基質での反応を行い、その選択性を検討する。このことは、実用的な天然物合成等への展開のためには必須のターゲットであり、早急に課題解決に向けた検討を行う。カゴ型アルミニウム錯体はカゴ型ホウ素錯体とは異なり、反応活性化時には高配位状態をとる。すなわち5配位状態となり、このことが立体障害を適度に与え、それが新しい制御因子となることが期待される。外部配位子を検討することでその反応性を緻密制御できる可能性があることは、ホウ素錯体に対して圧倒的な優位点である。現在は、さらに2座配位子を検討することも視野に入れ、より高配位化状態の高い反応中間体を用いた制御を行う予定である。 また、ホウ素錯体においては、πポケットにピレン等の縮合多環芳香族を配することで、光に応答する錯体として作用することを見出しており、その挙動を緻密に検討する。ピレンに置換基を導入し、吸収波長の調整と選択性の相関をみることで、基質の拡張を目指した展開をめざす。最終的には、ピレン含有カゴ型錯体をアルミニウム錯体に展開し、芳香族選択性と光応答性を組み合わせた全く新しい形の触媒の創成を行い、新型の触媒としての機能を検討する。 このように、新たに見出された知見に基づいた今後の方針を多角的に計画し、それらの成果を相乗的に活用できるような研究体制をとりつつ、検討を進める方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めている途上で、従来のカゴ型ホウ素錯体の研究とは異なるカゴ型アルミニウム錯体でのきわめて高い芳香族選択性が発現することが判明した。この結果はきわめて重要であることから、まずはカゴ型アルミニウム錯体の合成法の確立に注力したため、従来の計画の進展がやや抑えられる結果となった。一方で、次年度の研究計画は十分に練られており、また研究対象化合物の合成計画と合成法は緻密かつ綿密に確立している。これらの計画を遂行するための次年度使用額となり、きわめて合理的である。現在はアルミニウム錯体の合成経路は確立され、効率的かつ経済的に多くの種類の化合物を調製することができる。この知見をもとに、費用対効果の高い形で次年度使用額を活用することで、従来の計画および新しく検討すべき計画を実施し、芳香族選択的反応の向上を目指した検討を強く推進する計画である。
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