研究課題/領域番号 |
18K19082
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
永島 英夫 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (50159076)
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研究分担者 |
田原 淳士 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (50713145)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 非古典的結合活性化 / 遷移金属―典型金属結合 / ジシラメタラサイクル / ヒドロシラン / 均一系触媒反応 / 還元反応 / カルボニル化合物 |
研究実績の概要 |
遷移金属錯体を用いる均一系触媒反応においては、「反応基質の活性化、とくに、反応に関与する結合の切断、は遷移金属中心上で起こる(古典的結合活性化)」ことが広く受け入れられている。本研究では、適切に設計された遷移金属-典型金属結合を持つ錯体では、「反応基質の活性化、とくに、反応に関与する結合の切断は、遷移金属中心ではなく、遷移金属-典型金属結合上で起こる(非古典的結合活性化)」というパラダイムシフトを実証し、従来の遷移金属錯体触媒では達成できない、特異的に高い活性、選択性を有する反応、とくに不活性結合活性化を含む有機・高分子合成反応を、遷移金属-典型金属結合を持つ化合物で開発することを目的とする。 研究は2段階からなり、第1段階では、金属-ケイ素錯体の合成と素反応過程の解析を、実験と計算科学、双方の手法でおこない、第2段階で触媒反応への展開を図る。対象とする金属として、遷移金属としてイリジウム、典型元素としてケイ素を選択する。平成30年度の研究計画として、第1段階に相当する配位不飽和イリジウムジシラメタラサイクル錯体の合成と、そのイリジウム-ケイ素結合上で起こる基質活性化の素反応過程の実験的、理論的解析を実施する。第2段階の触媒反応の開発であるが、錯体化学、理論化学による素反応過程の検証と並行して、得られた知見の触媒反応への応用を行うことにより、素反応過程検証による触媒および触媒反応設計指針の確立、触媒反応から素反応過程への知見のフィードバックによる触媒、触媒反応設計の強化が可能である。今年度はとくに、ヒドロシランと各種不飽和化合物との反応を、触媒反応として実施する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度の研究計画として、第1段階に相当する配位不飽和イリジウムジシラメタラサイクル錯体の合成と、そのイリジウム-ケイ素結合上で起こる基質活性化の素反応過程の実験的、理論的解析を実施する予定であった。カルボニル基を有するイリジウムジシラメタラサイクル錯体を合成し、この錯体が紫外光により活性化され、COの脱離を引き起こすことを確認した。生じたイリジウム種は、触媒反応の中間体となりうるため、第2段階の研究に着手し、当該活性種が、とくに、Si-H基の活性化に優れた効果を示し、触媒的なアミドのエナミンへの転換反応のよい触媒であることを見出した。この結果から、当該反応中間体の別経路での発生法を考察し、一連のイリジウム、ロジウム錯体の触媒効果を系統的に検証する実験をおこなった。その結果、当該反応では従来しられていない、ホスフィンのみが配位したイリジウム錯体、ならびに、より簡便に得られるイリジウムアルケン錯体とホスフィンの混合物でも、優れた触媒効果が得られることを明らかにした。様々なアミドへの適用を図り、従来、特殊なイリジウム触媒でしか達成できなかったπ共役エナミンの合成も、今回見出した触媒系で実現することに成功した。新触媒系は、高い触媒活性と広い官能基体制を示し、広範なエナミン化合物の合成に有用である。また、関連研究として、鉄、ルテニウムジシラメタラサイクル錯体触媒を用いるカルボニル化合物の高効率ヒドロシリル化反応を、実験、理論計算双方から実施し、本成果との比較対象により、研究目的である、ジシラメタラサイクル錯体触媒の金属―ケイ素結合上での基質活性化に基づく触媒反応という概念が、一般的に成立することを示した。以上の成果は、当初予想よりはるかに速い進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の進捗状況が著しく、第一段階の目標であったイリジウムジシラメタラサイクル錯体からの活性種発生法、これからヒントを得た、他のイリジウム錯体からの活性種発生法を見出すことにより、アミドのヒドロシラン還元によるエナミン合成の新効率的触媒を開発した。また、鉄、ルテニウムジシラメタラサイクル錯体の合成と触媒的ヒドロシリル化反応研究により、金属―ケイ素結合上での基質活性化に基づく触媒反応という概念の一般化に成功した。今後、この研究をさらに展開していくためには、2つの方向性がある。1つは、反応機構の検証である。鉄、ルテニウムジシラメタラサイクル錯体の研究では、先に述べたように理論計算による機構解明が実現しており、今年度は、イリジウムジシラメタラサイクル触媒の反応機構の理論的解明をおこなう。 もう1つの方向性は、優れた触媒反応の開発であり、極めて高い触媒効率を示す、カルボニル化合物のヒドロシラン還元用イリジウム触媒の開発を、平成30年度成果から発想を得て実施する。また、これまでヒドロシランのSi-H結合の活性化と触媒反応を追求してきたが、今年度は、水素のH-H結合の活性化と触媒反応を検討する。きわめて困難な課題であるが、アルカンのC-H基の活性化についても併せて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
より簡便な活性種発生法の探索に成功したため、市販品や安価な薬品を用いて研究を進めることができたため、物品費は想定よりも安く抑えた。一方で、有機金属錯体の合成および保管に使用するグローブボックス装置内に設置された冷蔵庫が故障したため、その修理代が予期せぬ支出として「その他」に追加された。 次年度は、環状アミドやイミドといった異なる基質の還元反応に着手する予定であり、その基質合成および精製に物品費を使用予定である。また、得られた成果発信を目的とした学会参加のための旅費、実験補助のための人件費、論文の英文校正といったその他を適正に使用予定である。
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